ヒューストン・バレエのプリンシパル 加治屋百合子さんを中心に有志のダンサーたちが参加する〈Hearts for Artists〉(ハート・フォー・アーティスト)プロジェクト。コロナ禍で大きな打撃を受けた舞台関係者やアーテイストを支援するための活動です。さまざまなオンラインイベントが開催され、その収益は公益基金《舞台芸術を未来に繋ぐ基金》に寄付されます。
今回は6月11日(木)に開催された元ABT プリンシパル フリオ・ボッカ(Julio Bocca)のオンライン・スペシャルトークイベントの参加レポートです。
5月27日(水)に開催された加治屋百合子さんと平野亮一さんのトーク「チャットナイトwith百合子&亮一」のレポートはこちら↓
フリオ・ボッカ スペシャルトーク
今回のイベントは、フリオ・ボッカのABTでの元同僚でもある加治屋百合子さんが、インタビュアー&通訳で参加。費用は1,000円。
前回同様、Zoomウェビナーのシステムを利用。申し込みとクレジットカードによる支払いをオンラインで済ませると、イベント当日、参加のためのウェビナーIDが送られて来ます。パソコンやスマホにZoomがインストールしてあれば、ログインするだけで参加できます。
ログインすると、おふたりがそれぞれの自宅でスタンバイ。当日は日本時間で20:30からのスタート。時差を計算すると加治屋さんがいるヒューストンは6:30、フリオ・ボッカさんがいるウルグアイは8:30です。
イベント申込時に質問を記入できるようになっていて、数多くの質問が寄せられたということでした。1989年の来日公演『ドンキ・ホーテ』からのファンの方など、筋金入りのフリオファンがたくさん参加している模様!
加治屋さんが通訳した質問に、フリオさんはかなり細かく答えてくださいました。
バレエを始めてからアメリカン・バレエ・シアター(ABT)入団まで
まずは、加治屋さんもご存知なかったフリオさんのABT入団までの道のりを、インタビュー内容からまとめてみました。ミハイル・バリシニコフがABTに誘ってくれたくだりは、加治屋さんも「鳥肌がたった」とおっしゃっていました。
*メモしきれなかった部分もあり、およその内容です。
母親がバレエの教師だったため、4歳のときに母国アルゼンチンでバレエを始める。はじめはバレエは遊びだったが、7歳のときに国立劇場付属のバレエ学校に入学。遠方の学校に通うため、6時に家を出て、11時に戻る生活だったが、バレエが好きなので苦ではなかった。14歳でベネズエラのバレエ団に入団し、プロとして踊りはじめる。(当時から、自分で掃除や料理も行い、まるで25歳の男性のような生活をしていた。)15歳からはブラジルのバレエ団にプリンシパルとして入団。全幕の主役も経験。
1985年、モスクワ国際バレエコンクールで金賞を受賞。母国では一気にスターになった。しかしその頃前から傷めていた膝を手術をして、2か月ほど入院することになった。
その入院中に、ABTのミハイル・バリシニコフがモスクワのコンクールの映像を観て、ABTに来てみないかと言っていると電話が入り、大いに元気づけられる。
その後、完全ではないがケガがリカバーできたので、14時間かけてニューヨークに向かった。空港ではリムジンが迎えに来ていた。案内された高級マンションでシャワーを浴びたあと、ABTのスタジオに行くと、バリシニコフが待っていた。「レッスンをしよう」と言われて、バリシニコフとふたりっきりでバーレッスンをした。その後スタジオを移動してセンターレッスンをしたが、そのころのスターダンサー(シンシア・ハービー、ケビン・マッケンジー…)が次々に入ってきて緊張し、レッスンどころではなかった。
レッスン後、バリシニコフにABTに入団しないかと言われ、その場でOK。返事をしたときはコールドバレエだと思っていたが、実はプリンシパルとしての入団だった。
Q&A
フリオさんがたっぷり答えてくれた回答の一部をご紹介。
*言葉遣いなどは正確ではありません。およその内容としてご覧ください。
Q:ダンサーとして1番大事にしていることは?
A:舞台に立つ経験。技術も必要ではあるが、キャラクター性、個性。
プリンシパルとしては、一定レベルをキープすることが重要。また、お客様やほかのダンサー、スタッフとリスペクトし合うこと。
Q:好きなバレエ、役
A:どの役も好きだが、特に人間味があり、ストーリー性があるものが好き。
アレッサンドラ・フェリとのロミオとジュリエットやマノンは特別。20歳でフェリと「ロミオとジュリエット」を踊った後、引退直前までこの役を踊ったが、踊るごとに役に対する理解が変化する。枠にはめず「自分のロミオ」を踊ることが重要。
シンデレラの義姉など楽しい役もいいし、白鳥やジゼルもいいが、人間と人間の関係性がある役はやりがいがある。
Q:世界中で踊っているが、国による観客の反応の違いや特徴は?
A:アルゼンチンでは、ロックコンサートのような熱狂的な反応があるので、それと比べるとほかの国では反応が薄いと感じていたことも。しかしその後、それは国によるの文化の違いということを理解し、それぞれの文化をリスペクトしている。
日本は礼儀正しく、静かだが、拍手がとても長く、公演の後も劇場で多くのファンが待っていてくれる。
ボリショイ劇場での観客の反応はとてもストレート。時によっては笑われてしまうことも。ただ素晴らしいものを観たときの拍手は大きい。
Q:若手ダンサーに望むこと
A:ウルグアイのバレエ団の芸術監督を退いた後、世界中のバレエ団でコーチをしている。テクニックも重要だが、人間性と個性が一番大事。スタジオへの入り方、舞台への上がり方…
Q:現在のこと、これからの予定
A:今の拠点はウルグアイ。ウルグアイには13年いる。祖国アルゼンチンでは、非常に有名になってしまい、街の誰もが自分を知っている。嬉しいことだが、少し静かな生活がしたい。
*注:一説によると、アルゼンチンの3大有名人はマラドーナー、メッシ、フリオ・ボッカらしいです。
来年は新国立劇場のダンサーへの指導で日本へ行く予定がある。
Q:コロナ禍中の皆さんへのメッセージ
A:今の状況には必ず、ゴールがある。ダンサーも、ほかの人たちも希望を失わないで。自分を見直すいい機会と考えて、ハッピーに過ごしてください。
フリオ・ボッカから、森下洋子さんについての質問が!
ひと通りのQ&Aが終わったところで、フリオさんが加治屋さんに「僕からひとつ質問していい?」とひと言。
「森下洋子を知っているか?14歳の時にアルゼンチンで、森下洋子とフェルナンド・ブフォネスの公演を観て感動した」
加治屋さんが、森下洋子さんは今でも現役で踊られていることを告げると、フリオさんは驚いていましたが、来日の時にお会いしたいとおっしゃっていました。40年前、14歳のフリオさんにそこまでの強い印象を残した森下洋子さん…おふたりがお会いできるといいですね。
こうして予定時間の1時間を1時間近くオーバーして22時20分頃終了。
長いキャリアがあり多くの女性スターダンサーと踊った方だけに「まだまだエピソードはある」ということでしたので、第2弾を期待したい!
今後の〈Hearts for Artists〉のイベント
今後も週1〜2回はイベントが開催される予定とのこと、楽しみです!
今後の開催情報は〈Hearts for Artists〉のメディアパートナーであるバレエ・チャンネルでチェック。
6月21日(日)11:00からはハンブルク・バレエ プリンシパルの菅井円加さんがバレリーナ・トークで登場!
6月27日(土)19:00からは、ABTのバレエマスター、カルロス・ロペスによるオンライン・バレエレッスンを開催!
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《舞台芸術を未来に繋ぐ基金》について
〈Hearts for Artists〉が寄付を行う《舞台芸術を未来に繋ぐ基金》は、コロナ禍で大きな影響を受けた舞台芸術に携わるアーティスト・クリエーター・スタッフ(個人・団体・企業問わず)の今後の活動に向けた金銭的支援を目的として設立された基金です。
2020年8月25日までクラウドファンディングで寄付を募っています。一口3,000円から寄付が可能です。
《舞台芸術を未来に繋ぐ基金》https://www.butainomirai.org/
おわりに
私は残念ながら、フリオ・ボッカさんの 現役時代の公演は観ていません。過去の映像を観ると技術もすごいのですが、若い頃から濃厚な色気を感じます!14歳からプロとして活躍し、早くから大人として生活してきたというお話を聞いて、深く納得しました。
中古ですが↓↓
★最後までお読みいただきありがとうございました。