恵比寿ガーデンシネマでKバレエカンパニーの「くるみ割人形 in シネマ」を観てきました。クリスマスムード漂う恵比寿ガーデンプレイスがこの映画にぴったり。
主演は2020年でKバレエカンパニーを退団することが発表されている中村祥子さんと、遅沢佑介さんのペア。2018年収録版です。
くるみ割り人形 in Cinema / K-BALLET COMPANY
公開収録 2018年12月6日 Bunkamura オーチャードホール
芸術監督・振付・演出 熊川哲也
ドロッセルマイヤー:杉野慧
マリー姫:中村祥子
くるみ割り人形 / 王子:遅沢佑介
クララ:吉田このみ
人形王国の王様 / Dr.シュタールバウム:スチュアート・キャシディ
人形王国の王妃 / シュタールバウム夫人:山田蘭
ねずみの王様:ビャンバ・バットボルト
フリッツ:酒匂麗
ストーリーや構成はKバレエオリジナル色が強い
チャイコフスキーの3大バレエの中で、「くるみ割人形」って、ちょっとモヤモヤする感じがあるんですよね。
踊り自体はとても楽しめるし、曲もいい。ストーリーの問題?
でも「白鳥の湖」や「眠りの森の美女」だって、それほど納得いく話でもないけどな…
そんなことを思っていたら、Wikipediaにこんな説明が…
…前半は物語はおもしろいが踊りが地味、後半は踊りは美しいが物語が展開しない、しかも結末があいまい…
まさにこれです!
「くるみ割り人形」には数多い版がありますが、クララと金平糖の精(Kバレエではマリー姫)を同じダンサーが踊るか、別のダンサーが踊るのかで、2分されます。
別のダンサーが踊る場合は、キャスト的には金平糖の精が主役。主役なのに1幕に全く登場せず、物語に関与せず、いきなりグラン・パ・ド・ドゥを踊って終わる…
各バレエ団、構成やストーリーに工夫をしていますが、やっぱりこの唐突感は拭い去れない。
クララと金平糖の精が同じキャスト、もしくは金平糖の精ではなくて成長したクララが王子と踊るなら唐突感は少なくなります。新国立劇場バレエ団や東京バレエ団はこのバージョン。一つの作品で少女から大人への成長を表現して踊り分け、さらにヴィジュアル的にも納得させられる…クララ役はかなりハードル高いですね。
Kバレエ版「くるみ割り人形」は、クララと金平糖の精(マリー姫)は別キャスト。オリジナル色の強い構成で、この「構成が弱い」問題に、正面から挑んだ作品と言えるかもしれません。
まず、1幕冒頭からマリー姫(金平糖の精)が登場します。ねずみのお面を付けたマリー姫がねずみに虐げられているシーン。これが物語の伏線。マリー姫は1幕の最後の方でも、一瞬幻影のように登場します。
【Kバレエカンパニー版くるみ割り人形 あらすじ】
人形の国とねずみの国で領地争いが起こり、ねずみの王様に魔法をかけられたマリー姫はねずみに、婚約者の近衛兵隊長はくるみ割り人形に変えられてしまう。魔法を解くには、世界一硬い「クラカトゥクくるみ」を割るしかないが、それには純粋無垢な心を持つ人間の力が必要。人形の国の王様からの命令でドロッセルマイヤーは、人間界へと旅に出て、クララを探し出す。
ねずみと戦うくるみ割り人形を助け、人形の国に連れてこられたクララは「クラカトゥクくるみ」を割って魔法をとく。人形の国の人形たちはお祝いの踊りを踊り、魔法がとけたマリー姫と王子(くるみ割り人形)が2人で踊る。
人形の国から人間の世界に戻ったクララ。朝、目が覚めて枕元の贈り物の箱を開けると、そこにはマリー姫と王子の人形が入っていた。
…どうでしょう?ストーリー的には確かに納得感は増しています。ちょっと子供向けの感じにはなっていますが(若干ディズニーっぽい世界 )、ドロッセルマイヤーの役割もはっきりし、マリー姫も物語に参加している。
さらに、最後のグラン・パ・ド・ドゥの女性バリエーションの後に、ドロッセルマイヤーとクララの踊りが挿入されるなど、1幕2幕の分断感を軽減しようとしています。
納得感は増しているのですが、このバージョン、ちょっとクララがかわいそうに思えてしまいました。くるみ割り人形と王子が同一キャストのせいもありますが、一生懸命助けたくるみ割り人形は、マリー姫と結婚、人形の国もすぐに消えていってしまう。自分の手元には人形が残るだけ…
きっとクララが本当に小さい女の子の見えていたら、こうは思わないですね。「あなたの王子様は、もう少し大人になったら現れるわよ!」と思える。でも舞台のクララは、華奢で小柄な人がキャスティングされているとはいえ大人が踊っているので、ティーンエージャーぐらいに見えてしまう。それゆえに、なぜクララとくるみ割り人形=王子が結ばれないのか?と思ってしまうのかも。金平糖の精と王子が唐突に現れて、2人で踊るだけの版だとあまり気にならないですが、Kバレエ版は物語の筋が通っているだけに、余計そう感じてしまうのかもしれません。
ドロッセルマイヤーの甥が、クララのボーイフレンド的な存在として出てくる版がありますが、Kバレエ版にもぜひプラスしてほしいです 笑
中村祥子さんは貫禄のマリー姫
中村祥子さんは気品と貫禄を感じさせるマリー姫。ていねいで力強い踊りでした。
クララ役の吉田このみさんはとても華奢で手足が長く、きれいなダンサー。クララのイメージにぴったり。中村祥子さんとタイプが対照的で、その対比がこの作品では生きていました。
Kバレエ版くるみはドロッセルマイヤーも結構踊りますが、杉野慧さんもよかったです。
今年のKバレエの「くるみ割り人形」公演で、マリー姫にキャスティングされている成田紗弥さんが花のワルツソリスト、小林美奈さんが雪の女王で出演しています。
小林美奈さんはとてもキレのある踊りでした。雪のシーンは雪の量がものすごくて、きれいでしたが、滑りそうでみていてちょっと怖かった…(by テレプシコーラ)
熊川版「くるみ割人形」は誕生からもう15年とのこと。スクリーンの芸術監督・振付・演出 熊川哲也の文字を見ながら、Kバレエカンパニーは将来どうなっていくのかなとふと考えてしまいました。Kバレエは学校も付属しているし、才能のあるダンサーはどんどん出てくるとは思うのですが、芸術監督・振付・演出の重責と熊川哲也さんのパッションを引き継ぐ人を探すのは大変だろうな…。まだまだ先の話ではありますが。
こちらは2006年収録版。主演は熊川哲也さんと康村和恵さん。
まだ間に合う!各バレエ団の2019年12月の「くるみ割り人形」公演情報はこちら
中村祥子さん Kバレエカンパニー最後の「白鳥の湖」公演情報はこちら
www.balletaddict.com
★最後までお読みいただきありがとうございました。