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【鑑賞レポート】 新国立劇場バレエ団 くるみ割り人形

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新国立劇場バレエ団の「くるみ割り人形」を観てきました。

「くるみ割り人形」全9公演の最終日。主演はファースト・ソリストの木村優里さんと、プリンシパルに昇格したばかりの渡邊峻郁さんのペアです。

 

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クリスマスムードの新国立劇場。クリスマス直前の日曜日だったこともあり、ホワイエもいつもより華やいだ雰囲気でした。 

公演概要

2019年12月22日(日) 18:00〜20:15

新国立劇場 大ホール

振付:ウエイン・イーグリング

クララ/金平糖の精:木村優里

ドロッセルマイヤーの甥/くるみ割り人形/王子:渡邊峻郁

ドロッセルマイヤー:貝川鐵夫

ねずみの王様:井澤駿

 

 新国立劇場バレエ団の「くるみ割り人形」は、2017年に新制作されたウエイン・イーグリング版。ウエイン・イーグリングは元英国ロイヤル・バレエ団のプリンシパル。数々の振付を手がけ、オランダ国立バレエやイングリッシュ・ナショナル・バレエの芸術監督も務めています。

今年の新国立劇場バレエの「くるみ割り人形」の主演キャストは、小野絢子&福岡雄大、米沢唯&井澤駿、池田理沙子&奥村康祐と、この日の木村優里&渡邊峻郁の4組でした。

 

イーグリング版はクララの淡い恋心もテーマ

「くるみ割り人形」は決定版といえる振付・演出がないためか、さまざまなバージョンが存在しますが、イーグリング版も構成、振付共に独自色の強い版です。

 

振付はクラシックベースではあるものの、現代的な印象を受けました。男女ペアの踊りが多く、中でもかなりリフトが多用されています。男女それぞれのテクニックというよりは、パートナーリングや流れで魅せるという印象でした。

 

「くるみ割り人形」の構成はクララと金平糖の精を同じダンサーが踊るかどうかで、2分されます。イーグリング版ではクララ=金平糖の精ですが、はじめに登場するのは子役が演じるクララ。現実世界では子役、クララがみる夢の中のクララは木村優里さんが演じるという構成になっています。1幕にはかなり多くの子供が出演しています。

一方、くるみ割り人形の渡邊峻郁さんはドロッセルマイヤーの甥として、はじめから現実世界にも登場。その後クララの夢の中ではくるみ割り人形になったり、甥になったりで何度か入れ替わり、夢の最後では王子に。そしてクララが夢からさめた物語の最後では再び甥に、と出ずっぱり、なおかつ、3つの役を演じるというなかなか忙しい役どころです。

全てはクララがみた夢の世界であることをはっきりさせ、イーグリング自身が「ロマンスの要素を入れた」と語っているように、クララの甥に対する淡い恋心が物語のキーになっています。実際に観ると、クララの子役から大人への変身が、やや唐突ではあるものの、全体としては納得感がある物語でした。ただクララ自身が金平糖の精になっていて、「ワクワクするお菓子の国」というクララの目線がないせいか、お菓子の国シーンが意外に地味…という気もしました。

 

イーグリング版のハイライト

スケートシーン

冒頭はクララの一家の屋敷の外のスケートシーンで始まります。ダンサーはスケート靴のようなものを履いて、本当のスケートのように滑るのですが、靴に仕掛けがあるんでしょうか?英国の冬を感じさせる演出。

 

ねずみの王様もプリンシパル

ねずみの王様は目が赤く光り、かぶりものも割と邪悪な感じで怖いキャラ。踊るシーンも多くて、この日はプリンシパルの井澤駿さんが演じていました。かぶりもので全く顔も見えないのですが、贅沢ですよね。(カーテンコールの時に一瞬だけ、かぶりものを脱いでいましたが)別の公演では渡邊峻郁さんや奥村康祐さんもねずみの王様を演じていて、男性プリンシパルにとってはなかなかハードな演目ですね 笑

 

美しい雪の国

雪の国は踊りのシーンではほとんど雪が降らず、雪の迫力はないものの、揃った群舞がとてもきれいでした。張りのある真っ白なクラシックチュチュの衣装で、上の階から見ると、一人一人のチュチュの円形が、まるで雪のようでした。フォーメーションの乱れのなさが素晴らしかったです。

ただかなり遠方の席から観ていたにも関わらず、コールドが揃ってポーズを決める時に「バサッ」「バサッ」と衣装から音がしていたような気がするのですが、あれはいいんだろうか…?

気球が登場

クララたちの雪の国からお菓子の国への移動がそりというのはよく見ますが、イーグリング版ではなんと気球。この気球の下にロープで宙吊りになって、ねずみの王様がお菓子の国までついてきます。やっぱり、ねずみの王様はかなり過酷な役 笑

この気球、物語の最後にもちらっと登場。「夢じゃなかったのかも…」というメッセージでしょうが、見逃さないように注意してください。

お菓子の国の蝶々って…

お菓子の国の各国踊りの「葦笛」または「フランス」や「フランス人形」の踊りが、イーグリング版ではなぜか「蝶々」。なぜ蝶々?曲のイメージ?

女性一人の踊りで、この日は別日でクララを演じている池田理沙子さんがキャストされていました。途中からはなぜか、ドロッセルマイヤーも踊りに参加。イーグリング版のドロッセルマイヤーは物語を引っ張る役割が弱めで、若干影が薄い気がしたのですが、蝶々と踊る、なんとなく嬉しそうなドロッセルマイヤーが一番印象に残りました。

 

ポピーの花のワルツ

花のワルツは男女ペアバージョン。ピンク系が多いと思われる花ワルツの衣装ですが、イーグリング版は女性の衣装が鮮やかなオレンジ。花ならポピーを思い出してしまう色です。この衣装もそうですが、舞台も衣装も、パステル系ではない割と重めの色調でちょっと珍しい雰囲気。

 

新国の次世代を担う木村優里&渡邊峻郁ペア 

木村優里さんは少女のような雰囲気があり、この方であれば子役が演じた現実世界のクララも演じられたのではないかと思いました。

10月にプリンシパルに昇格した渡邊峻郁さんも適役。特にドロッセルマイヤーの甥がとても似合っていた気がします。好青年タイプですね。高いジャンプでも着地がソフトでほとんど音がしない、品のある踊りでした。

 

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 個人的についつい注目してしまう貝川鐵夫さんはドロッセルマイヤー。いつもながらこの手の役がぴったりです。

 

公演後に主演の木村優里さん、渡邊峻郁さんの握手会があったのですが、ホワイエは長蛇の列!私は残念ながら参加できませんでしたが、千秋楽でもあり、さぞかし盛り上がったことでしょう。

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 新国立劇場バレエ イーグリング版「くるみ割り人形」DVD+BOOKS

新国立劇場バレエのイーグリング版はDVDも発売されています。

2017年収録。主演は小野絢子さんと福岡雄大さんのペア。

 

最後に

構成が弱く、初演はあまり成功しなかったらしい「くるみ割り人形」。逆にそのことが、さまざまなバージョンを生み出していてるのは面白いですね。それもチャイコフスキーの音楽の普遍的な魅力があってこそなのでしょう。

 

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★最後までお読みいただきありがとうございました。