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新国立劇場バレエ団 『眠れる森の美女』小野絢子×福岡雄大【鑑賞レポート】

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新国立劇場バレエ団の『眠れる森の美女』を鑑賞しました。

全4公演の初日、主演は新国立劇場バレエ団の看板ペア、小野絢子さんと福岡雄大さんです。小野絢子さんのオーロラ、素晴らしかった…

今回の『眠れる森の美女』は2014年に新制作されたウェイン・イーグリング版。イーグリング版の特徴と感想などを書きたいと思います。

公演概要

『眠れる森の美女』 新国立劇場バレエ団

2021年2月20日(土) 14:00〜

会場:新国立劇場 オペラパレス

芸術監督:吉田都

振付:ウエイン・イーグリング(原振付:マリウス・プティパ)

台本:マリウス・プティパ、イワン・フセヴォロジスキー(シャルル・ペロー原作)

音楽:ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー

指揮:冨田実里 管弦楽:東京交響楽団

衣裳:トゥール・ヴァン・シャイク

【キャスト】

オーロラ姫:小野絢子

デジレ王子:福岡雄大

リラの精:木村優里

カラボス:本島美和

国王:貝川鐵夫

王妃:関晶帆

式典長カタラビュート:菅野英男

〈6人の妖精〉

誠実の精:玉井るい、優美の精:柴山紗帆、寛容の精:飯野萌子、歓びの精:広瀬碧、勇敢の精:奥田花純、気品の精:横山柊子

〈4人の王子〉

イタリア:浜崎恵二朗、スコットランド:小柴富久修、ドイツ:中島駿野、ロシア:中家正博

エメラルド:柴山紗帆、サファイア:廣川みくり、アメジスト:広瀬碧、ゴールド:速水渉悟

フロリナ王女:池田理沙子、青い鳥:奥村康祐

長靴をはいた猫:原 健太、白い猫:渡辺与布

赤ずきん:五月女遥、狼:中島駿野

親指トム:井澤 諒

 

【 上演スケジュール】

プロローグ:14:00〜14:35

第1・2幕:15:00〜16:05

第3幕:16:30〜17:30

新型コロナ感染防止のため、観客は収容人数の50%。ただし、一席おきなどの座席配置ではないので、観やすい席に観客が集中して座っているというちょっと不思議な状況です。観客の連絡先の事前登録や、検温、飲食禁止など、コロナ禍でのバレエ鑑賞にもみんな慣れてきた感じ…

今回の『眠りの森の美女』は、前芸術監督の大原永子さんが就任した2014-201年のシーズン開幕作品として新制作されたウエイン・イーグリング版。その後、2017年、2018年にも再演されています。

改訂振付のウエイン・イーグリングは元英国ロイヤル・バレエ団のプリンシパル。オランダ国立バレエやイングリッシュ・ナショナル・バレエの芸術監督を歴任しています。

 

こちらは初演時のメイキング映像。装置の設営など貴重な舞台裏の映像が面白い。イーグリングや衣裳デザインのトゥール・ヴァン・シャイクがインタビューに答えています↓

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今回の全4公演のオーロラ姫とデジレ王子は小野絢子&福岡雄大、米沢唯&渡邊峻郁、木村優里&奥村康祐(井澤駿さんが怪我で降板)の3組。

 

小野絢子さんの輝くオーロラ姫

オーロラ姫は純粋なおとぎ話のお姫様。「くるみ割り人形」のクララや「白鳥の湖」のオデットと比べても、もっともリアリティがない気がします。(人間が白鳥に変えられるのも荒唐無稽な話ではありますが、白鳥に変えられた悲しみの感情など、まだ手がかりがある感じ…)

そんな架空のお姫様として突如舞台に登場し、佇まいだけで観客を納得させないといけない…とても難しい役だなと「眠り」を観るたびに思います。

小野絢子さんは第1幕で登場した瞬間から、16歳のオーロラ姫そのもの。気品と可愛らしさ、純粋さ…キラキラと光り輝く特別な存在に見えます。その後、100年の眠りから覚めた3幕では高貴で美しいお姫様に。踊りのコントロールも素晴らしかったです。

カラボスの本島美和さん、リラの精の木村優里さんも、それぞれ役の個性にとてもあっていました。

ジュエルズでは、特にエメラルドの柴山紗帆さんがクリアで美しかったです。ゴールドの速水渉悟さんは相変わらず、パワフルな踊り。

イーグリング版の長靴をはいた猫&白い猫は、すっぽりとマスクを被って踊るので、表現が難しそうですが、原健太さんと渡辺与布さんの軽やかな踊りは印象に残りました。

また群舞も素晴らしかった。特に1幕の6人の妖精を含む12人の妖精たちの踊りや、ガーランド(花輪)・ワルツ。ガーランド・ワルツはイーグリング振付の特徴とも言える、高度なパートナーリングを必要とする男女ペアの群舞。ガーランドを持ちながらのリフトなど、とても難しそうでしたが美しく揃っていました。

 イーグリング版のみどころ

マリウス・プティパの原振付に、現代的な要素を盛り込んだイーグリング版『眠れる森の美女』。ほかの版ではあまり観られないみどころをまとめてみました。

カラボスVSリラの精

オーロラ姫に呪いをかける悪の精カラボスと、呪いからオーロラを守る善の妖精リラの精の対比が強調されています。イーグリング版では、カラボスもポアントで踊ります。

序奏の後、幕が開くとカラボスとリラの精が登場。善と悪の戦いを予感させながら、オーロラ姫の誕生を祝うプロローグへと転換。2幕でリラの精がオーロラの元へ王子を導いて行く際にも、リラの精とカラボスが闘うシーンが長め。

ちなみにプロローグで、カラボスは巨大蜘蛛に乗って現れます。『くるみ割り人形』では気球が登場していましたが、イーグリングは乗り物好きなのか?

目覚めのパ・ド・ドゥ

イーグリング版最大の特徴ともいえる2幕ラスト「目覚めのパ・ド・ドゥ」。オーロラ姫が100年の眠りから覚めた後、デジレ王子と踊ります。前出のメイキング映像ではイーグリング自身が、「伝統的な作品にいくらかのリアリティを加えたかった。…それを「目覚めのパ・ド・ドゥ」で表現した」と語っています。姫と王子ではなく、男女が恋に落ちて踊る「目覚めのパ・ド・ドゥ」。

このシーンではオーロラ姫はチュチュではなく、ジュリエットのようなナイトドレス姿。ヴァイオリンの調べにのせたロマンチックな踊りは、オーロラの夢の世界を表現しているようにも思えます。

この日の公演では、小野絢子さんと福岡雄大さんの素晴らしいパートナーリングを堪能しました。

気品の精と親指トム?

他の版には登場しないオリジナルキャラクターも。

イーグリング版では通常は5人の妖精が6人。増えているのは「気品の精」です。

3幕のディヴェルティスマンは、版によって登場するキャラクターが少しずつ異なりますが、イーグリング版には「親指トム」が登場。(「親指トム」はもともとはイギリスの民話ですが、シャルル・ペロー版もあるようです)

ジャンプなどのテクニック満載の男性ソロの踊りは、男性の見せ場が少なめの『眠れる森の美女』の中では貴重。この日は井澤諒さんが弾むような踊りを観せてくれました。

トゥール・ヴァン・シャイクの衣裳は男性の胸元が気になる…

イーグリング版『眠れる森の美女』では、振付家、アーティストとしても活躍し、舞台美術・衣裳デザイナーとしてブノワ賞を受賞しているトゥール・ヴァン・シェイクが衣裳を担当しています。

重めの色彩で一見クラシックな衣裳ではあるのですが、よくみると結構個性が強い。

観ていてどうしても気になったのは、男性の衣裳の胸元が大きく開いているものが多いこと。1幕のカヴァリエ、2幕のデジレ王子、3幕のゴールド…胸元がV字にかなり深く開いていて、Vの字の縁取りにフリルが付いている…。

えりの詰まった衣裳に比べて踊りやすそうではありますが、この手のデザインを品よく素敵に着こなすのは、かなり難易度が高いかも…3幕のデジレ王子はスタンドカラーの衣裳だったので、ちょっとホッとしたりして(笑)。

リラの精のリラの花のヘッドピースや、オーロラの3幕を通して全て真っ白の衣裳は、とても素敵でした。

 

衣裳やイーグリング版の特徴が垣間見える、 新国立劇場の3分でわかる『眠れる森の美女』。こちらの映像は2014年公演、オーロラ姫は米沢唯さん、デジレ王子はワディム・ムンタギロフ(ゲスト)

ワディム・ムンタギロフのデジレ王子が素敵。胸元の大きく開いた衣裳も彼だとそこまで気にならない…(贔屓目です 笑)↓

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 おわりに

豪華で美しい舞台に癒されました。

『眠れる森の美女』公演は本日最終日、全4回無事に終了!途中で感染者が出なくてよかった。ダンサーやスタッフはさぞホッとしていることでしょう。

ちなみに『眠れる森の美女』公演中は新国立劇場5階の情報センターでレオン・バクストの『眠れる森の美女』のための衣裳デザイン画が展示されていました。レオン・バクストはロシアの画家、舞台美術家、衣裳デザイナー。セルゲイ・ディアギレフが主宰したバレエ・リュスで、舞台美術を担当した人物です。

みられる原版は一点ですが、情報センターのエントランスにはたくさんの図版が飾られ、キャラクターと豪華な衣裳はとても興味深かったです。

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2020年12月のイーグリング版『くるみ割り人形』の記事はこちら

www.balletaddict.com

 

 2018年収録のイーグリング版『眠れる森の美女』DVD+BOOKS。

主演は小野絢子さんと福岡雄大さん↓