第16回世界バレエフェスティバル Aプログラムを鑑賞しました。
コロナ禍という異常事態の中での開催された3年に1度のバレエの祭典。いつも以上に心に残る公演になりました。
公演概要
8月16日(月)14:00〜
第16回世界バレエフェスティバル Aプログラム
東京文化会館 大ホール
指揮: ワレリー・オブジャニコフ、ロベルタス・セルヴェニカス
管弦楽: 東京フィルハーモニー交響楽団
ピアノ: 菊池洋子(「ル・パルク」、「瀕死の白鳥」、「ライモンダ」)
チェロ: 遠藤真理(「瀕死の白鳥」)*伊藤悠貴より変更
【上演スケジュール】
第1部 14:00~14:55
休憩 20分
第2部 15:15~16:10
休憩 20分
第3部 16:30~17:15
東京の緊急事態宣言の影響で、途中でチケットが売り止めになった世界バレエフェスティバル。Aプロ最終日、平日マチネのこの公演で、観客の入りは70〜80%ぐらいでしょうか…1階フロアはほぼ満席。上階は空席が目立ちました。
ホワイエの装飾はいつも通りのムード。天井から下がっているダンサーたちのバナーは、支援オークションに出品されます。エントリーは2021年8月31日まで!
〈世界バレエフェスティバル〉開催支援寄付オークション / 寄付お申込み / 公益財団法人 日本舞台芸術振興会
第1部
「ゼンツァーノの花祭り」 オニール八菜、マチアス・エイマン
振付:オーギュスト・ブルノンヴィル
音楽:エドヴァルド・ヘルステッド
観るまでは正直「ゼンツァーノの花祭り」って、このふたりにどうなの?と思っていたのですが、予想を裏切る素晴らしさ!
ずーっと観ていたい思わせる、マチアス・エイマンの軽やかなブルノンヴィルステップ。あんなに滑らかに動けるなんて…。本当に弾む鞠のようでした。
強さのある役の方がはまると思っていたオニール八菜さんも、柔らかく初々しいムードのこの役がとても似合っていました。
「ロミオとジュリエット」より 第1幕のパ・ド・ドゥ オリガ・スミルノワ、ウラジーミル・シクリャローフ
振付:レオニード・ラヴロフスキー
音楽:セルゲイ・プロコフィエフ
若さ溢れるというよりはちょっと大人のムードの美しいロミオとジュリエット。今回マリインスキーからは女性ダンサーが参加しておらず、このふたりもボリショイ &マリインスキーの混合組でしたが、それを感じさせないバランスの良いペアでした。
「パーシスタント・パースウェイジョン」 菅井円加、アレクサンドル・トルーシュ
振付:ジョン・ノイマイヤー
音楽:ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン
ベートベンの生誕250年を記念して創られたノイマイヤー作品「ベートーヴェン・プロジェクトⅡ」から抜粋された美しいパ・ド・ドゥ。菅井円加さんの隅々までコントロールされた踊りが素晴らしかった。テクニックだけでなく、彼女の踊りを観ていると何かポジティブな、あたたかい気持ちになります。
光沢のある灰緑色のシンプルなドレスを着た菅井円加さんは、すっかり大人の女性の佇まいでした。
「オネーギン」より 第1幕のパ・ド・ドゥ ドロテ・ジルベール、フリーデマン・フォーゲル
振付:ジョン・クランコ
音楽:ピョートル・チャイコフスキー
当初のプログラムではドロテ・ジルベール&ユーゴ・マルシャンの「グラン・パ・クラシック」でしたが、ユーゴ・マルシャンの入国が遅れ、急遽 プログラムが変更に。Aプロではフリーデマン・フォーゲル演じるオネーギンが、1幕、3幕のパ・ド・ドゥを別々のダンサーと踊るという興味深い事態になりました。
ふたりのパートナーリングが命ともいうべきこの演目を急遽の代役で踊るとは、さすが「オネーギン」本家シュツットガルト・バレエ団のフリーデマン・フォーゲル。
ドロテ・ジルベールのインスタグラムに舞台袖からの動画が投稿されていますが、
冒頭のタチヤーナを高速で振り回す?リフトなど、シャープで美しかった…
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ドロテ・ジルベールのタチヤーナを観ていたら、2020年のパリ・オペラ座の来日公演の『オネーギン』を思い出しました。この時のオネーギンはユーゴ・マルシャン!
ギラギラしていた ユーゴ・マルシャンのオネーギンに比べ、アクは少なめ、抑制の効いたフリーデマン・フォーゲルのオネーギン。その分タチヤーナの感情が浮かび上がってくるような印象を受けました。
2020年のパリ・オペラ座の来日公演の感想はこちら↓
第2部
追悼 カルラ・フラッチ、パトリック・デュポン(映像)
2部の冒頭には今年亡くなられたカルラ・フラッチとパトリック・デュポンの追悼映像が流れました。「白鳥の湖」の道化や、「ドン・キホーテ」のバジルを演じるパトリック・デュポンのあまりのショーマンぶりに観客からは盛大な拍手が。
「白鳥の湖」より 第1幕のソロ ダニール・シムキン
振付:パトリス・バール
音楽:ピョートル・チャイコフスキー
愁いをたたえる王子のソロ。バレエフェスではじめてシムキンの「パリの炎」を観たときの、衝撃を今でも覚えています。ジャンプや回転でバレエフェスの観客を沸かせてきた彼が、この演目を選んだことがなんだか感慨深い。年齢を重ねてこれからどんなダンサーになっていくのかな。上半身の柔軟性は相変わらず素晴らしかったです。
「ジュエルズ」より "ダイヤモンド" アマンディーヌ・アルビッソン、マチュー・ガニオ
振付:ジョージ・バランシン
音楽:ピョートル・チャイコフスキー
ダンサーに備わっている品格が明らかになる気がするこの演目。アマンディーヌ・アルビッソンの美しい脚のライン、輝く白い衣裳が似合いすぎる気品あるマチュー・ガニオを堪能しました。
アマンディーヌ・アルビッソンのインスタグラムより。
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「マノン」より 第1幕のパ・ド・ドゥ 金子扶生、ワディム・ムンタギロフ
振付:ケネス・マクミラン
音楽:ジュール・マスネ
急遽出演が決まった金子扶生さんのマノン。こういう艶やかな役も似合っていて魅力的でした。ワディム・ムンタギロフの実直なデ・グリューも文句なし。2022年に予定されている英国ロイヤル・バレエ団の来日公演の演目は「マノン」と「ジゼル」。このふたりの「マノン」全幕も観てみたい。
ワディム・ムンタギロフのインスタグラムより。
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2020年、新国立劇場バレエ団の「マノン」にワディム・ムンタギロフがゲスト出演した公演の感想はこちら↓
「ル・パルク」アレッサンドラ・フェリ、マルセロ・ゴメス
振付:アンジュラン・プレルジョカージュ
音楽:ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト
フェリ&ゴメス組が登場しただけで、世界バレエフェスティバルだな〜と感慨深い。ふたりの描き出す世界に引き込まれました。
フェリは現在58歳。朝日新聞のフェリのインタビューにはこんな言葉が。
…人生のすべての段階にかけがえのない固有の美しさがあることを、私は自らの肉体で証明したい。
2021年8月19日付 朝日新聞夕刊記事「今だからこの瞬間を踊る」より
この公演をみた後では、この言葉に深く頷けます。
「海賊」エカテリーナ・クリサノワ、キム・キミン
振付:マリウス・プティパ
音楽:リッカルド・ドリゴ
観客が一番沸いたのはこの演目かも。エカテリーナ・クリサノワとキム・キミンのキレのあるテクニックは、観ているだけで気持ちが晴れ晴れしました。特にキム・キミンのジャンプの高さやラインの美しさは素晴らしかった。
第3部
「スワン・ソング」 ジル・ロマン
振付:ジョルジオ・マディア
音楽:モーリス・ベジャールの声、ヨハン・セバスティアン・バッハ
元モーリス・ベジャールの20世紀バレエ団のダンサーで、振付家、指導者として活躍するジョルジオ・マディアの振付作品。
黒い紗のスクリーンに映し出される映像がスクリーンの後ろで踊るジル・ロマンに被って見える仕掛けが面白かった。痩身のジル・ロマンがとても大きく見えた作品。
「オネーギン」より 第3幕のパ・ド・ドゥ エリサ・バデネス、フリーデマン・フォーゲル
振付:ジョン・クランコ
音楽:ピョートル・チャイコフスキー
ドロテ・ジルベールと第1幕のパ・ド・ドゥを踊ったフリーデマン・フォーゲルのオネーギンが再び登場!
1幕のパ・ド・ドゥ以上にふたりのコンビネーションが素晴らしかったです。ギリギリのところでオネーギンを拒否する、エリサ・バデネス演じるタチヤーナの心情が胸に迫りました。1幕パ・ド・ドゥと合わせると、ちょっと「オネーギン」の抜粋版を観たようで、なんだか得した気分(笑)
「瀕死の白鳥」 スヴェトラーナ・ザハロワ
振付:ミハイル・フォーキン
音楽:カミーユ・サン=サーンス
急遽参加が決まったザハロワ様。しなやかな腕の動きが美しかった!自分と同じ人間の腕とは思えない…。
「ライモンダ」 マリーヤ・アレクサンドロワ、ヴラディスラフ・ ラントラートフ
振付:マリウス・プティパ
音楽:アレクサンドル・グラズノフ
ラントラートフの堂々とした風格が印象に残りました。以前は姉と弟のようだったマリーヤ・アレクサンドロワ、ヴラディスラフ・ ラントラートフ組ですが、すっかり大人のカップルに。アレクサンドロワの軽やかなポワントワークも衰えを見せず。
トリが「ドン・キホーテ」じゃないのは、少し寂しかったけど…。
フィナーレ 「眠れる森の美女」よりアポテオーズ(ネタバレあり)
おなじみのアポテオーズにのせて、ダンサーたちが登場。声を出せない観客は力の限り拍手を送っていました。
ダンサーたちに感謝を込めて、見事な花火のプロジェクションマッピングが映し出されて、フィナーレ。とても素敵な演出でした。
ワディム・ムンタギロフのインスタグラムより。
シムキン撮影のおかしな出演者集合写真、いろんなところで見かけます(笑)
みんな変顔のなか、ザハロワ様だけクール。「この人誰?」状態のマチュー・ガニオやムンタギロフ、エリサ・バデネスを見習って欲しいです(笑)
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おわりに
久しぶりに観た世界のダンサーたちの心のこもった踊りに涙が出そうになりました。
ダンサー、主催者、関係者には本当にありがとうと言いたい。
Bプロ最終日まで、感染者を出さずに無事に開催され、ダンサーたちが何事もなく帰国できるように心から祈っています。
スワンマガジン64号は世界バレエフェスティバル特集!
世界バレエフェスティバルの生みの親、佐々木忠次さんの著書
★最後までお読みいただきありがとうございました。