『シュツットガルト・バレエ団の輝けるスターたち』、3月21日(月・祝)のCプロを鑑賞しました。当初予定されていたシュツットガルト・バレエ団のフル・カンパニーの公演がコロナの影響で中止となり、代わりにおこなわれたガラ公演。久しぶりに海外ダンサーたちの踊りを楽しみました。
公演概要
『シュツットガルト・バレエ団の輝けるスターたち』Cプログラム
2022年3月21日(月・祝)14:00〜
東京文化会館大ホール
*特別録音による音源を使用。『椿姫』より第2幕のパ・ド・ドゥ、『Ssss...』よりソロ、の2作品のみ、菊池洋子さんによるピアノ演奏。
【出演者】
ロシオ・アレマン、エリサ・バデネス、アグネス・スー、デヴィッド・ムーア、マルティ・フェルナンデス・パイシャ、フリーデマン・フォーゲル
マッケンジー・ブラウン、ヘンリック・エリクソン、クリーメンス・フルーリッヒ、アレッサンドロ・ジャクイント、マッテオ・ミッチーニ
【上演スケジュール】
第1部 15:00~15:50
休憩 20分
第2部 16:10~17:05
休憩 20分
第3部 17:25~17:45
今回のガラはAプロ、Bプロ、Cプロ各1回の公演。フリーデマン・フォーゲルの『ボレロ』は3日連続上演でした。
出演ダンサーは6人のプリンシパルと5人のドゥミ・ソリスト。(出演予定だったドゥミ・ソリストのガブリエル・フィゲレドは来日直前に体調を崩して不参加に。)
シュツットガルト・バレエ団の芸術監督のタマシュ・デートリッヒも来日しており、客席に姿がありました。カーテンコールでは舞台にも登場。
『オネーギン』が観られなかった
招聘元の今回の推しは『ボレロ』だったのでしょうが、個人的にはフリーデマン・フォーゲルの『オネーギン』をとても楽しみにしていました。
40歳を超え、キャリアの円熟期にあるフォーゲル。今こそ彼の『オネーギン』が観たい。(本当はフル・カンパニーの公演で予定されていた全幕『オネーギン』で観たかったけど…)
2021年の世界バレエフェスティバルで観たフォーゲルの1幕と3幕のパ・ド・ドゥも素晴らしかった↓
なのに!まさかの当日変更。
演目変更の理由は、「芸術監督の強い意向により」ということでした。
キャスト変更ではなく演目が変更になったので、『オネーギン』自体全く観られず 。
「まさかの」とは書きましたが、Bプロで『オネーギン』のキャストがフォーゲルからマルティ・フェルナンデス・パイシャに変更になったあたりから、なんとなく予感はしてました。
当初、Cプロのフォーゲルの出演は『オネーギン』→『うたかたの恋』→『ボレロ』。
濃厚なドラマティックバレエ2作品と3日連続『ボレロ』の最終日。
大丈夫なのか?と思っていましたが、やはり…。
結果的に3回公演でフリーデマン・フォーゲルが出演したのは、『うたかたの恋』と『ボレロ』の2作品でした。
それでも十分に充実した舞台でした。各作品の感想を簡単に書きます。
第一部
『ホルベアの時代』より
振付:ジョン・クランコ
音楽:エドヴァルド・グリーグ
【出演】アグネス・スー、マルティ・フェルナンデス・パイシャ
グリーグ作曲の「ホルベアの時代」に振り付けられた、オープニングにぴったりの清々しい作品でした。2021年11月にプリンシパルになったばかりのアグネス・スーは手脚が長くしなやか。特に優雅な腕の動きに魅せられました。
ホワイトからブルーのグラデーションで、男女でグラデーションの方向が逆になっている衣裳も素敵だった。
『椿姫』より第2幕のパ・ドゥ・ドゥ
振付:ジョン・ノイマイヤー
音楽:フレデリック・ショパン
【出演】エリサ・バデネス、デヴィッド・ムーア
『オネーギン』の替わりに上演されたのはノイマイヤーの『椿姫』第2幕のパ・ド・ドゥ。結果的にエリサ・バデネス&デヴィッド・ムーアの『椿姫』は3日連続の上演になりました。
演目変更に気をとられていたせいか、残念ながらあまり作品に入り込めず。大好きな作品(実は『オネーギン』より好き)ですが、『椿姫』のパ・ド・ドゥ、特にこの切ない第2幕のパ・ド・ドゥをガラで観るときは、一気に作品世界に没入できるかが、勝負(なんの?)な気がします。
『ソロ』
振付:ハンス・ファン・マーネン
音楽:ヨハン・セバスティアン・バッハ
【出演】ヘンリック・エリクソン、アレッサンドロ・ジャクイント、マッテオ・ミッチーニ
男性のドゥミ・ソリスト3人によるコンテンポラリー作品。これはおもしろかったです。
テンポの速いバッハの曲にあわせて、3人が次々に踊ります。重心を低くした姿勢でのスピーディーな動きは、生き生きとしていて、ときにユーモラス。最後まで目が離せませんでした。
『ロミオとジュリエット』より 第1幕のパ・ド・ドゥ
振付:ジョン・クランコ
音楽:セルゲイ・プロコフィエフ
【出演】ロシオ・アレマン、マルティ・フェルナンデス・パイシャ
ジョン・クランコ版『ロミオとジュリエット』より、バルコニーのパ・ド・ドゥ。ロシオ・アレマン、マルティ・フェルナンデス・パイシャ、ともにフレッシュで役に合っていました。
2019年のWORLD BALLET DAY に配信された『ロミオとジュリエット』のリハーサルでは、エリサ・バデネスとフリーデマン・フォーゲルがバルコニーのシーンを踊っています。この映像では、ものすごく情感あふれる演出・振付だと思ったのですが(観ているだけでちょっとニヤケてしまうぐらい 笑)、今回の舞台ではそこまでの「ラブラブ感」はなかったような…。
21:00あたりからバルコニーのシーンです↓
もうすぐ東京バレエ団がジョン・クランコ版『ロミオとジュリエット』全幕を上演しますね。どんな舞台になるのか楽しみです。
第2部
『白鳥の湖』より 黒鳥のパ・ド・ドゥ
振付:ジョン・クランコ *マリウス・プティパに基づく
音楽:ピョートル・チャイコフスキー
【出演】エリサ・バデネス、デヴィッド・ムーア
『椿姫』のふたりが、再び登場。この2人の組み合わせには『黒鳥』の方がハマる感じ。2021年の世界バレエフェスティバルでも、「黒鳥」を踊っていたエリサ・バデネス。強靭なテクニックが生きる演目だと思いました。
デヴィッド・ムーアはここ数年で身体が一回り大きくなった気がする…。若干重い印象でしたが、王子らしい堂々とした風格がありました。
『Ssss...』より ソロ
振付:エドワード・クルグ
音楽:フレデリック・ショパン
【出演】マルティ・フェルナンデス・パイシャ
ルーマニア出身の振付家エドワード・クルグの作品。ショパンのノクターンにのせた、繊細な作品でした。本日3作品目に出演のマルティ・フェルナンデス・パイシャ。この作品が一番似合っていたかも。
『コンチェルト』
振付:ケネス・マクミラン
音楽:ドミートリイ・ショスタコーヴィッチ
【出演】アグネス・スー、クリーメンス・フルーリッヒ
マクミランの『コンチェルト』から叙情的な第2楽章のパート。バーレッスンのようなシンプルな動きの繰り返しですが、ダンサーの実力があきらかになる作品のような気がします。
アグネス・スーはこの演目でも美しかったです。レッスンバーに見立てられた男性ダンサーが、常に女性ダンサーをサポートし続けているこのパート。アグネス・スーが美しく見えたということは、パートナーのクリーメンス・フルーリッヒもいい仕事をしていたということでしょう。
『スペル・オン・ユー』
振付:マルコ・ゲッケ
音楽:ニーナ・シモン
【出演】マッケンジー・ブラウン、ヘンリック・エリクソン、アレッサンドロ・ジャクイント、マッテオ・ミッチーニ
この作品もとてもよかったです。コンテンポラリー音痴の私ですが、シュツットガルト・バレエ団の上演するコンテンポラリー作品には、惹かれるものが多いです。
2005年から2018年までシュツットガルト・バレエ団の常任振付家だったマルコ・ゲッケの作品。第1部『ソロ』に出演した3人に加えて、ローザンヌ国際バレエコンクールでの活躍も記憶に新しいマッケンジー・ブラウンが出演。
エネルギッシュで、独特な手の動きが印象的な振付。もし振付だけを音楽なしで見たら、ジャズ・ヴォーカルに合わせた振り付けには見えない気がするのですが、実際にはジャズシンガー、ニーナ・シモンの歌声と振付が絶妙に調和していました。
上半身裸(マッケンジー・ブラウンはスキンカラーのレオタード)、下半身は黒いパンツで、ウエストからキラキラ光る長い2本の紐状のもの?が垂れている衣裳でした。紐が揺れる様子もきれいだった。
ローザンヌ国際コンクール2019でのマッケンジー・ブラウン。コンテンポラリーのクリアな踊りが印象深い↓
『うたかたの恋』より 第2幕のパ・ド・ドゥ
振付:ケネス・マクミラン
音楽:フランツ・リスト
編曲:ジョン・ランチベリー
【出演】エリサ・バデネス、フリーデマン・フォーゲル
ハプスブルグ家の皇太子ルドルフが、17歳の愛人マリーと心中したマイヤーリンク事件を題材にした『うたかたの恋』から、ルドルフの寝室を舞台にした第2幕のパ・ド・ドゥ。
この演目も3日連続の上演でした。『うたかたの恋』のシュツットガルト・バレエ団での初演は2019年。タマシュ・デートリッヒが芸術監督に就任した後、新たに加わった全幕レパートリーです。そういう意味でも、ぜひとも日本で上演したかったのでしょうね。
フリーデマン・フォーゲル演じる皇太子ルドルフは軍服の上着を着て登場し、すぐに脱ぎ捨てます。軍服の下は白いとろみのある素材のシャツ。エレガントなものではなく、シンプルでインナーっぽいシャツです。下はサイドに赤のラインが入ったぴったりした黒のパンツ(タイツ)と黒のロングブーツ。
この衣裳があまりにフォーゲルに似合っていて!
手脚の長さ、ライン、筋肉のつき方、全体のバランス…完全に個人的な好みですが、男性ダンサーとしては理想的な身体の持ち主だとしみじみ眺めてしまいました。
いきなりフォーゲルの身体のことばかり書いてしまいましたが、作品もよかったです。幕が開いて、一気に物語に引き込まれる感じでした。
『うたかたの恋』全幕は英国ロイヤル・バレエのシネマでスティーブン・マックレーがルドルフを演じたものしか観たことがありません。フォーゲルのルドルフはマックレーに比べると、苦悩する感じはあまりない。むしろ淡々としていて、すでに心が向こう側に行ってしまった人の狂気、みたいなものを感じました。
令嬢マリーを演じたエリサ・バデネスも、狂気を内に秘めた情熱を感じさせて、とてもよかった。
この公演のフリーデマン・フォーゲルの紹介画像。ちらっと『うたかたの恋』の映像が見られます↓
ちなみに素人考えでは、2部の最後にこの演目→20分の休憩後に3部の『ボレロ』ってどうなの?って思ってしまいますが、あまり間を空けずに踊ったほうがむしろ楽なんでしょうか?
第3部
『ボレロ』
振付:モーリス・ベジャール
音楽:モーリス・ラヴェル
【出演】フリーデマン・フォーゲル
樋口祐輝、玉川貴博、大塚卓、岡﨑司、東京バレエ団
円卓上で踊るフリーデマン・フォーゲルの肉体と動きに、ひたすら見入っているうちにあっという間に終わってしまった20分。今まで観た『ボレロ』の中で、最も短く感じた20分でした。
フォーゲルが「ダンスマガジン」のインタビューで、『ボレロ』についてこんなふうに語っていました。
そして、観客の皆さんとのエネルギーの交換。ぼくは観客を自分の踊りに巻き込もうとは思いません。ぼく自身が『ボレロ』で作り出すストーリーのなかにみなさんを導き入れたいんです。
「ダンスマガジン」2022年4月号より抜粋
この言葉通り、フォーゲルの内なる世界に引き込まれていくような、そんな『ボレロ』でした。
それにしても、改めてフォーゲルの動きの精度に驚きます。後ろアチチュードに脚を振り上げるところとか、脚以外のパーツが微動だにしない。背景の暗闇に黒いタイツが馴染んで脚のラインが見えにくいなか、アチュードに振り上げた裸足の足先が暗闇に浮かんで、はじめて脚上げてるんだと気づく感じ。
共演の”リズム”は東京バレエ団のダンサーたち。”メロディ”との一体感が素晴らしかったです。
おわりに
最終日だったので、終演後の幕の向こう側からダンサーたちの歓声が聞こえてきて、無事に3日間終わってよかったなぁと感慨深かったです。
全幕公演中止は残念でしたが、ガラ公演からもシュツトガルト・バレエ 団のダンサーやレパートリーの充実ぶりが伝わってきました。
英国ロイヤル・バレエの来日公演も全幕からガラ公演に変更になりましたね。
当分来日公演はガラ公演が主流になるのかも。
概要/英国ロイヤル・バレエ ガラ/2022/NBS公演一覧/NBS日本舞台芸術振興会
ダンスマガジン4月号 特集「フリーデマン・フォーゲルのいま」
表紙は観たかった『オネーギン』↓
アリシア・アマトリアインとフォーゲルの『オネーギン』↓
レンスキーはムーア、オリガはバデネスです。
バデネスとムーアの『ロミオとジュリエット』↓
★最後までお読みいただきありがとうございました。