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東京バレエ団 秋山瑛×池本祥真『ロミオとジュリエット』【バレエ鑑賞メモ】

東京バレエ団のジョン・クランコ版『ロミオとジュリエット』を鑑賞しました。

5月1日(日)の秋山瑛さん、池本祥真さん主演の公演。はじめて観たジョン・クランコ版『ロミオとジュリエット』に心奪われました。

東京文化会館では「上野の森バレエホリディ2022」が開催中。華やかな雰囲気のなかでの公演でした。

公演概要

東京バレエ団「ロミオとジュリエット」全3幕

振付:ジョン・クランコ

音楽:セルゲイ・プロコフィエフ

装置・衣裳:ユルゲン・ローゼ

指揮:ベンジャミン・ポープ

演奏:東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団

【キャスト】

キャピュレット公:木村和夫

キャピュレット夫人:伝田陽美

ジュリエット:秋山瑛

ティボルト:鳥海創

パリス:南江祐生

乳母:坂井直子

 

モンタギュー公:和田康佑

モンタギュー夫人:二瓶加奈子

ロミオ:池本祥真

マキューシオ:生方隆之介

ベンヴォーリオ:玉川貴博

 

ヴェローナの大公:中嶋智哉

僧ローレンス:岡﨑司

ロザリンド:加藤くるみ

ジプシー:政本絵美、中川美雪、髙浦由美子

カーニバルのダンサー:ブラウリオ・アルバレス、鈴木理央、工桃子、海田一成、山下湧吾

【上演時間】

第1幕:14:00 - 14:55

休憩:20分

第2幕:15:15 - 15:45

休憩:20分

第3幕:16:05 - 16:45

2014年にジョン・ノイマイヤー版『ロミオとジュリエット』を上演した東京バレエ団が、新たに取り組んだジョン・クランコ版『ロミオとジュリエット』。

今回の主演は沖香菜子×柄本弾、足立真里亜×秋元康臣、秋山瑛×池本祥真の3組。沖香菜子×柄本弾組はジョン・ノイマイヤー版でもタイトルロールを踊っています。

この日の主演、秋山瑛さんと池本祥真さん。東京バレエ団のインスタグラムより。

 
 
 
 
 
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公演パンフレットによると、1962年にジョン・クランコがシュツットガルト・バレエ団で『ロミオとジュリエット』を初演してから、今年でちょうど60年。(1958年にミラノ・スカラ座がジョン・クランコに振付を依頼した『ロミオとジュリエット』を上演していますが、屋外円形劇場での公演だったため、演出上の制約があったとのこと。)

 

3月のシュツットガルト・バレエ団の来日公演の時に実現したという、シュツットガルト・バレエ団芸術監督タマシュ・デートリッヒへのインタビュー動画が、東京バレエ団のYouTubeチャンネルにアップされています。

彼の人生を変えたジョン・クランコ版『ロミオとジュリエット』と、ジョン・クランコ作品の魅力について語っている感動的なインタビューです。

www.youtube.com

音楽、踊り、ドラマの一体感が素晴らしいジョン・クランコ版

群舞も含めてたっぷりと踊りを観せてくれるにもかかわらず、物語の展開はスピーディー。ラストに向かって駆け抜けるような、疾走感あふれる構成がとにかく素晴らしかった。

ロミオとジュリエットが出会ってからの高揚感、恋の切なさがロマンティックに描かれているのも印象的。それだけにラストの悲劇が胸に迫ります。

公演パンフレットの中で芸術監督の斎藤友佳里さんが「マクミラン版もノイマイヤー版も素晴らしい「ロミオとジュリエット」だと思いますが、観るたびに、クランコ版はその原点となる作品だなと感じます」と語っているのもうなずけます。

印象に残った点をあげてみます。

ユルゲン・ローゼの空間構成が秀逸

衣裳・舞台美術は『オネーギン』でもおなじみのユルゲン・ローゼ。

舞台の奥の高い位置に回廊があり、場面によって、町の橋梁、キャピュレット家の柱廊、ジュリエットの部屋のバルコニー、ジュリエットの遺体が安置される地下霊廟と変化していくさまが見事。(熊川哲也版にも同様の回廊のセットがありましたが、こちらが本家なのですね。)

回廊は舞台空間を上下2層に分けているだけでなく、回廊のうしろにも空間があり(どのくらいのスペースがとられているのだろう…)、舞台の手前と奥を2分する役割もはたしています。

一目で惹かれあったロミオとジュリエットが、舞踏会を抜けだしてキャピュレット家の庭でふたりで踊るシーンでは、柱廊の後ろ側、紗のカーテン越しに舞踏会を楽しむ人々の姿が見えています。舞踏会の音楽や人々の笑いさざめく声が聞こえてきそうな情景のなかで、お互いの姿しか見えなくなっているロミオとジュリエットが踊るシーンが、なんとも美しかった。

最後の3幕4場は、暗闇のなかジュリエットの棺が、回廊の奥?上?から地下霊廟に下されるシーンからはじまります。全貌はよく見えなかったのですが、あれはどういう仕掛けになっていたのだろう?暗闇のなか、ジュリエットの白い顔が浮かび上がり、とても印象的でした。

絢爛豪華な舞踏会シーン

1幕のキャピュレット家の舞踏会の幕開け、有名な「騎士たちの踊り」のシーンは壮観でした。踊りは男性がクッションを手に踊る「クッション・ダンス」。キャピュレット家や客人の白、黒、ゴールド、シルバー、ブロンズの重厚な衣裳がシックで、踊りの雰囲気にぴったり。

ちなみに、この舞踏会に紛れ込んでくるロミオ、マキューシオ、ベンヴォーリオの3人組は鮮やかなオレンジ色の衣裳。ダークトーンの人々の中で目立ちすぎてて、誰が見ても闖入者(笑)。

私が観に行った日はではないのですが、ロザリンド役の政本絵美さんのインスタグラム投稿より。ちょっとずつデザインが違うのが凝ってますね。

 
 
 
 
 
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バルコニーには階段がない!

『ロミオとジュリエット』といえば、バルコニーのパ・ド・ドゥ。ジョン・クランコ版の特徴は、バルコニーに階段がないこと!ジュリエットはロミオに庭まで下ろしてもらい、パ・ド・ドゥを踊った後は、ロミオにリフトしてもらってバルコニーに戻るのです。

パ・ド・ドゥの終盤、ロミオがジュリエットの手を引いて、屋敷の外へと誘うようなところがあるのですが、ジュリエットは「もう戻らなければ」とロミオをとめる。ロミオは、ずっと一緒にいたい気持ちを抑えて、ジュリエットをバルコニーに戻してあげる。このロミオの紳士な態度に、ちょっとうるっとしました。恋は人を大人にする…。

またパ・ド・ドゥ最後のロミオの懸垂シーン(ロミオがバルコニーの縁に手をかけ、懸垂してジュリエットにお別れのキスをするシーン)も、階段がないからこそ必然性が生まれるわけです。

(シュツットガルト・バレエ団のガラで上演されたバルコニーのパ・ド・ドゥでは懸垂シーンは省略されていましたが、たしかバルコニーには階段があったと思う…)

噂の懸垂シーン、はじめて観ましたが、キツそう…。先日シネマで観た英国ロイヤル・バレエ団の『ロミオとジュリエット』の幕間のインタビューで、リャーン・ベンジャミンが1幕のロミオは本当に大変で、バルコニーのパ・ド・ドゥのときには疲れ切っていると話していました。踊り的にはマクミラン版以上に大変そうなジョン・クランコ版。その1幕の最後の最後に懸垂を持ってくるとは…ジョン・クランコ、鬼ですね(笑)

 

英国ロイヤル・バレエ団、マクミラン版『ロミオとジュリエット』の感想はこちら↓

www.balletaddict.com

スパークするカーニバルの踊り

第2幕はヴェローナの街のカーニバルの踊りでスタート。

幕開きの円陣を組んだ状態から、花が開くように踊りはじめるダンサーたち。踊りながら次々とフォーメーションが変わっていくのが見事で、見ごたえのある群舞でした。このシーンの印象は、マクミラン版とかなり違うかも。

ヴェローナの街の人々の赤やオレンジの色彩豊かな衣裳と躍動感あふれる踊りは、第1幕のキャピュレット家のシックで重厚な舞踏会のシーンとの対比が鮮やか。

なぜ僧ローレンスは森にいるのか?

ジュリエットとロミオの結婚に立ち会い、ジュリエットに仮死状態になる薬を渡す僧ローレンスがでてくるシーン。今まで観た他の版なら、たいてい礼拝堂の中のようなセットでしたが、ジョン・クランコ版の僧ローレンスはなぜか森にいる。舞台の上手には、木の枝で組まれたような質素な十字架(お墓?)が。

僧ローレンスのはじめの登場の仕方も独特。手にドクロと薬草?のようなものを入れた籠を持って出てくる。なんでドクロ?これから起こる悲劇の予兆か?と思って観ていたのですが、あとでふと思ったのは「もしかすると仮死状態になる薬の材料!?」ということ。そう思うとにわかに僧ローレンスが怪しい人物に思えてくるんですが…。

気になって、大昔に1度読んだ気がする(でもほとんど記憶にない)シェークスピアの原作「ロミオとジュリエット」を読み返してみようかと、本を買ってみました。

そうしたら原作でも僧ローレンスは薬草の入った籠を手に登場するんですね(ドクロとは書いてなかったけど)。この怪しい感じ、原作に忠実だったということか…。

 

松岡和子さんの新訳を買ってみました。読みやすいです。

ジュリエットの髪を弄ぶロミオに涙

第3幕1場、ヴェローナを追放になったロミオが、ジュリエットの部屋で一夜を過ごし、朝を迎えるシーン。先に目覚めたロミオは、まだ寝ているジュリエットの髪を自分の指に絡めて弄ぶ仕草をします。

そして最後の霊廟のシーン。ジュリエットが死んだと思ったロミオは短剣で自分を刺し(ジョン・クランコ版ではロミオは毒薬ではなく、短剣で自死)、ジュリエットの脇に横たわる。体勢としてはジュリエットの部屋で朝を迎えた時と全く一緒です。そして命が尽きる前に、再びジュリエットの髪を自分の指に絡める仕草をするのです。これは泣けた。

表情は見えなくても、きっとロミオはジュリエットのとなりで微笑みながら死んでいったのだろうと思わせる演出でした。

フレッシュでリアルだった秋山瑛さん、池本祥真さん

この日のジュリエットは、4月にプリンシパルに昇格したばかりの秋山瑛さん。子鹿のような容姿はジュリエットにぴったり。踊りは可憐で生命力に溢れ、伸びやかな手脚が美しかった。

ロミオを演じた池本祥真さんの、クリアで音楽性豊かな踊りも素晴らしかったです。超絶難しそうなクランコの振付も、彼が踊るとその難しさを楽しんでいるかのように見えてしまう。特にロミオ、マキューシオ、ベンヴォーリオの3人組が、キャピュレット家の舞踏会に向かう「仮面の踊り」の場面。トゥール・アン・レール連発の過酷そうな振付ですが、軽やかな回転がすべて音にスパッとハマっていて見事でした。

ジュリエットに出会う前、ロザリンドにちょっかい出しているときのチャラい感じや、ジュリエットに恋したあとの心ここに在らずな感じもリアルでよかったです。

主演のふたり以外では、軽快でひょうひょうとしたマキューシオを演じていた生方隆之介さん、気品のある佇まいが素敵だったパリスの南江祐生さんが印象に残りました。

おわりに

実は東京バレエ団の全幕を観るのは、久しぶりでした。ダンサーの層がかなり若返って、勢いとパワーを感じました。終演後はなかなか拍手が鳴り止まず。とてもいい舞台でした。

3月のKバレエカンパニーの熊川版を皮切りに、シュツットガルト・バレエ団ガラ公演(ジョン・クランコ版バルコニーのパ・ド・ドゥ抜粋)、英国ロイヤル・バレエ団のマクミラン版のシネマと鑑賞してきましたが、今回のジョン・クランコ版で、私の「ロミジュリ祭り」はひとまず終了。(7月の英国ロイヤル・バレエ・ガラでも、バルコニーのパ・ド・ドゥは観られそうですが)

改めて感じたのは、『ロミオとジュリエット』のプロコフィエフの音楽がもつ絶大な力です。素晴らしい演出や振付も、ダンサーの名演も、この音楽に導かれて引き出されるのだなと。

 

マクミラン版ですが、英国ロイヤル・バレエ団の『ロミオとジュリエット』が2022年6月19日までセール中!主演はヤスミン・ナグディとマシュー・ボール。

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★最後までお読みいただき、ありがとうございました。