東京バレエ団のマカロワ版『ラ・バヤデール』を鑑賞しました。ニキヤは秋山瑛 さん、ソロルは秋元康臣さん、10月13日の公演です。
この日は学校団体が鑑賞していて、客席のざわめきもいつもとちょっと違う感じ。でも学生さんのバレエ鑑賞体験として『ラ・バヤデール』ってどうなんでしょう。三角関係、刃物沙汰、アヘン吸引…どんな感想をもったのか、聴いてみたいです 笑。
公演概要
『ラ・バヤデール』全3幕 東京バレエ団
2022年10月14日(木) 13:00開演
東京文化会館大ホール
芸術監督:斎藤友佳理
振付・演出:ナタリア・マカロワ(マリウス・プティパの原振付による)
音楽:ルトヴィク・ミンクス
リハーサル指導:フリオ・ボッカ、オルガ・エヴレイノフ
舞台美術:ピエール・ルイジ・サマリターニ
衣裳:ヨランダ・ソナベント
【キャスト】
ニキヤ(神殿の舞姫):秋山 瑛
ソロル(戦士):秋元康臣
ガムザッティ(ラジャの娘):二瓶加奈子
ハイ・ブラーミン(大僧正):安村圭太
ラジャ(国王):中嶋智哉
マグダヴェーヤ(苦行僧の長):井福俊太郎
アヤ(ガムザッティの召使):菊池彩美
ソロルの友人:大塚 卓
ブロンズ像:生方隆之介
《第1幕》
侍女たちの踊り(ジャンペの踊り):政本絵美、平木菜子
パ・ダクシオン:中沢恵理子、工 桃子、安西くるみ、長岡佑奈、政本絵美、髙浦由美子、長谷川琴音、平木菜子、ブラウリオ・アルバレス、南江祐生
《第2幕》
影の王国(第1ヴァリエーション):涌田美紀
影の王国(第2ヴァリエーション):金子仁美
影の王国(第3ヴァリエーション):長谷川琴音
指揮: フィリップ・エリス
管弦楽: 東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団
【上演スケジュール】
第1幕 13:00~14:00
休憩 20分
第2幕 14:20~15:00
休憩 20分
第3幕 15:20~15:40
ナタリア・マカロワ版の『ラ・バヤデール』の初演は1980年、アメリカン・バレエ・シアター。ロシアでは1940年代ごろから上演されなくなっていた終幕の”神殿崩壊”を復活させたことで知られています。
東京バレエ団でのマカロワ版『ラ・バヤデール』は2009年。初演では現芸術監督の斎藤友佳理さんがニキヤを演じています。今回、国内では5年ぶりの上演とのこと。
ドラマとして納得感のあるマカロワ版
マカロワ版全3幕の内容は以下の通り。
1幕は、ニキヤとソロルの逢瀬から、ガムザッティとニキヤの対決、ガムザッティとソロルの婚約の祝宴の最中に毒蛇に噛まれてニキヤが死ぬまで。
2幕は阿片を吸ったソロルの目の前にあらわれるニキヤの幻、”影の王国”の情景。
3幕はガムザッティとソロルの婚礼の儀式が引き起こす”神殿崩壊”。
ドロドロの愛憎劇を描く1幕、究極の”白いバレエ”といわれる2幕、現実世界と”あの世”の境界線が溶けてしまう3幕と、ドラマティックな構成に引き込まれました。
他の版では2幕に分けられることも多いニキヤの死までが1幕に収まっていて、1幕には「壺の踊り」も「太鼓の踊り」もでてきません。「太鼓の踊り」、けっこう好きなので、ちょっと寂しくはあるけれど、その分ニキヤとソロルの物語に集中できる感じ。
なかでもこの版で印象的なのは、3幕の婚礼の場で踊られるニキヤの幻影とソロル、ガムザッティ、ラジャによるパ・ド・カトル。(ラジャはそこまで踊りませんが)
公演パンフレットのインタビューで斎藤友佳理さんもふれられていましたが、この場面、ラコット版『ラ・シルフィード』で妖精シルフィード、ジェームス、エフィー(ジェームスの婚約者)が踊るパ・ド・トロワを彷彿とさせます。
ソロル以外の人には見えないニキヤの幻影が、ソロルを自分の世界へと引き込んでいくさまが、美しくドラマティック。
このパ・ド・カトルでは、死んだはずのニキヤの気配に怯えるガムザッティが哀れに見えてくる。ほかの版では単なる敵役のように見えてしまうことのあるガムザッティが、より陰影のあるキャラクターになっている気がします。
ヨランダ・ソナベントの衣裳が美しい
衣裳デザインはKバレエカンパニーの数々の作品の衣裳でもおなじみのヨランダ・ソナベント。
豪奢でありながらシックな美しい衣裳。全体的に抑えたトーンのなか、ニキヤの鮮やかな白と赤の衣裳がくっきりと浮かび上がる感じ。
3幕のコールドバレエの女性たちが着ていた衣裳も印象に残りました。ハーレムパンツとトップスですが、ベージュ(もしくはカーキ)系に黒の組み合わせで、ターコイズブルーの装飾がアクセントになっている。3幕の暗めの照明のなかで、妖しくきらめいて美しかった。
予想を超えた秋山瑛さんのニキヤ
観る前からイメージぴったりだと思っていた秋山瑛さんのニキヤは、想像以上の素晴らしさでした。1幕の愛情、怒り、悲しみなどの深い感情表現が凄みを感じさせました。2幕、3幕の幻影になったニキヤとの対比も見事。
可憐な少女のような容姿ですが、こういう複雑な陰影のある大人の役がはまる人だと思う。
秋山瑛さんがジュリエットを演じた『ロミオとジュリエット』の感想はこちら
秋元康臣さんはいつもながらのノーブルな踊り。テクニック満載のソロルの踊りも、秋元さんが踊ると気品溢れる美しさです。
ただ秋山瑛さんが演じるニキヤがかなり濃厚なので、秋元康臣さんのソロルが若干淡白にみえてしまうきらいも。それぞれ、別の組み合わせで観てみたい気もしました。
二瓶加奈子さんは、威厳ある佇まいとクリアな踊りがガムザッティにふさわしかったです。秋山瑛さん演じるニキヤとの対決場面も迫力満点。
バレエチャンネル『ラ・バヤデール』特集のガムザッティ役の3人のダンサーによるクロストークが面白かった↓
ブロンズアイドルは生方隆之介さん。4月に観た『ロミオとジュリエット』で演じていたひょうひょうとしたマキューシオがとても印象的でした。ブロンズアイドルを踊るダンサーにしては長身だと思うのですが、よくコントロールされたキレのある踊りでした。
そして『ラ・バヤデール』もうひとつの主役とも言える”影の王国”のコール・ド・バレエ。上の階から観ていたのですが、一糸乱れぬフォーメションが素晴らしかった。
おわりに
久しぶりに劇場で観た”影の王国”、バレエでしか表現できない美しさだなぁと改めて感じました。大掛かりな作品ですが、もうちょっと頻繁に劇場で観たいです!
英国ロイヤル・バレエのマカロワ版。
ニキヤ:マリアネラ・ヌニェス、ガムザッティ:ナタリア・オシポワ、ソロル:ワディム・ムンタギロフ。なんて贅沢なキャスティング。
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★最後までお読みいただきありがとうございました。