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ハンブルク・バレエ団『ジョン・ノイマイヤーの世界 Edition 2023』【バレエ鑑賞メモ】

ハンブルク・バレエ団の『ジョン・ノイマイヤーの世界 Edition2023』を鑑賞しました。芸術監督就任50周年を迎えた84歳のノイマイヤー。来シーズンで芸術監督退任が決まっており、ハンブルク・バレエ団を率いての来日は今回が最後。客席の盛り上がりもすごかったです。

 

公演概要

『ジョン・ノイマイヤーの世界 Edition2023』ハンブルク・バレエ団

2023年3月4日(土)14:00開演

東京文化会館大ホール

芸術監督/主席振付家:ジョン・ノイマイヤー

振付・演出・語り:ジョン・ノイマイヤー

【上演スケジュール】
第1部 1時間15分
休憩 20分
第2部  1時間10分

『ジョン・ノイマイヤーの世界』は単なる代表作の抜粋を並べたガラではなく、ノイマイヤーが自ら登場し、自身のダンスの世界を案内してくれる、他に類を見ない公演です。

プログラムにはハンブル・バレエ団芸術監督就任翌年の1974年の「くるみ割り人形」から2020年の「ゴースト・ライト」まで、この50年の歴史を表したような多彩な作品が並んでいます。

『ジョン・ノイマイヤーの世界』は2016年、2018年の来日公演に続き、今回が3回目の上演。今回新たに加わったのは「シルヴィア」「アンナ・カレリーナ」「ゴースト・ライト」。

バレエチャンネルの記事より。記者会見のレポート↓

balletchannel.jp

ノイマイヤーがナビゲートするノイマイヤーの世界

冒頭、真紅のオペラカーテンから登場するノイマイヤーは、前回同様白いシャツとパンツに黒いネクタイ姿。

それぞれの作品についてのナレーションも流れ、日本語訳もオペラのように舞台の両袖に表示されます。日本語訳は配役表と一緒に配布もされていました。

作品中には同じ服装のもうひとりのノイマイヤーが登場し、作品によっては踊りに参加したり、傍観したり。ふたりのノイマイヤーが並んでいるときもある。

もうひとりのノイマイヤーを演じたのは、クリストファー・エヴァンスでした。

クリストファー・エヴァンスはひょうひょうとした軽さのあるキャラクターで、シリアスなタイプの多いハンブルク・バレエ団のなかではちょっと目立つ存在。その軽さが各作品を横断する狂言回しのポジションにはぴったりでした。

菅井円加さんをはじめとする主要キャストのダンサーたちが魅力的なのはもちろんなのですが、今回強く感じたのはコール・ド・バレエの充実ぶり。群舞から発せられるエネルギーが素晴らしかったです。

第1部

「キャンディード序曲」

『バーンスタイン・ダンス』より

音楽:レナード・バーンスタイン

世界初演:1998年

スー・リン - クリストファー・エヴァンス
グレタ・ヨーゲンズ - ヤコポ・ベル―シ
菅井円加 - フェリックス・パケほか

軽快な「キャンディード序曲」にのせた華やかな群舞が幕開けぴったりでした。中心で踊る菅井円加さんの躍動感にひきつけられます。

女性のシンプルなキャミソールドレスの、少しずつ異なる淡い色合いが美しい…と思ったら、衣裳はジョルジオ・アルマーニ。

「アイ・ガット・リズム」

『シャル・ウィ・ダンス?』より

音楽:ジョージ・ガーシュウィン

世界初演:1986年

イダ・プレトリウス - アレッサンドロ・フローラ、ほか

2021年の「世界バレエフェスティバル」で菅井円加さんとアレクサンドル・トルーシュが踊っていた演目。群舞が加わると、よりショーアップされて見応えがありました。女性ダンサーの燕尾服にポアント姿が可愛い。

 

「くるみ割り人形」

音楽:ピョートル・チャイコフスキー

世界初演:1974年

マリー:アリーナ・コジョカル
ギュンター:マティアス・オベルリン
ルイーズ:アンナ・ラウデール
ドロッセルマイヤー:ボリヤ・ベルムデス、 クリストファー・エヴァンス
ほか

ノイマイヤー版『くるみ割り人形』はバレエ に憧れる少女マリーが主人公。舞台上にはバーが置かれ、バレエ レッスンの風景も描かれます。全幕を観たくなりました。

アリーナ・コジョカルのキラキラした感じは衰えませんね。相手役(王子?ギュンター?)のマティアス・オベルリンも美しかった。


「ヴェニスに死す」

トーマス・マンの小説に基づく

音楽:ヨハン・セバスティアン・バッハ、リヒャルト・ワーグナー

世界初演:2003年

シルヴィア・アッツォーニ、クリストファー・エヴァンス、
カレン・アザチャン

シルヴィア・アッツォーニが出ていたというのに、このパートはあまり記憶がない…。

舞台奥に置かれた大きな鏡と、白と黒の静謐な世界…。


「シルヴィア」

音楽:レオ・ドリーブ

世界初演:1997年

シルヴィア:菅井円加
アミンタ:アレクサンドル・トルーシュ

今回の来日公演後半で全幕が上演される『シルヴィア』から、シルヴィアとアミンタの出会いのパ・ド・ドゥ。

シルヴィアを踊る菅井円加さんのしなやかさや躍動感が圧巻。アレクサンドル・トルーシュのシャイなアミンタも素敵でした。全幕への期待が膨らみます。

「アンナ・カレーニナ」

音楽:ピヨートル・チャイコフスキー、アルフレート・シュニトケ、キャット・スティーヴンス/ユスフ・イスラム

世界初演:2017年

アンナ・カレーニナ:アンナ・ラウデール
アレクセイ・ヴロンスキー:エドウィン・レヴァツォフ
キティ:エミリー・マゾン
リョーヴィン:アレイズ・マルティネス
労働者:カレン・アザチャン

長身ペア、アンナ・ラウデールとエドウィン・レヴァツォフによる『アンナ・カレーニナ』。

シンプルな黒のロングドレスに赤いバッグを抱えた現代のアンナ・カレリーナ。不倫相手のヴロンスキーは白いスポーツジャケット。全幕への興味がかき立てられるような抜粋版でした。

舞台後ろに白い壁とドアのシンプルな装置があって、この壁を使った振付がおもしろかった。

記者会見によると、この作品は近くDVDが発売されるようです。

「椿姫」

アレクサンドル・デュマ・フィスの小説に基づく

音楽:フレデリック・ショパン

世界初演:1978年

マルグリット:アリーナ・コジョカル
アルマン:アレクサンドル・トルーシュ

恋の幸福感にあふれていながら、 底に潜む死の影を思わせる、哀しく美しい白のパ・ド・ドゥ。アリーナ・コジョカルの儚さ、アレクサンドル・トルーシュの甘さ…。

超絶技巧のリフトが連続する振付も、この2人なら安心。心おきなく物語に没入できました。

「クリスマス・オラトリオⅠ-Ⅵ」

音楽:ヨハン・セバスティアン・バッハ

世界初演:Ⅰ−Ⅲ 2007年、Ⅰ-Ⅵ 2013年

クリストファー・エヴァンス、パトリシア・フリッツァ、
パク・ユンス、ラセ・カバイエロ、シャーロット・ラーゼラー、
ヤコポ・ベル―シ、ほか

一部の最後は、キリストの降誕を祝うバッハの音楽にのせた祝祭感溢れる踊り。

 

第2部

「ニジンスキー」

音楽:フレデリック・ショパン、ロベルト・シューマン、ニコライ・リムスキー=コルサコフ、ドミトリー・ショスタコーヴィチ

世界初演:2000年

ヴァスラフ・ニジンスキー:    アレイズ・マルティネス
ロモラ・ニジンスキー:ヤイサ・コル
スタニスラフ・ニジンスキー:ルイ・ミュザン
ブロニスラヴァ・ニジンスカ:パトリシア・フリッツァ
ペトルーシュカを踊るニジンスキー:クリストファー・エヴァンス ほか


第1次世界大戦のイメージと思われる、カーキの色の衣裳の群舞のエネルギーが圧倒的。

光る円の形が変化していく抽象的な背景の装置と、生々しい踊りの対比が印象に残りました。

 

「ゴースト・ライト」*日本初演

音楽:フランツ・シューベルト

世界初演:2020年

シルヴィア・アッツォーニ - アレクサンドル・リアブコ
マティアス・オベルリン - ダヴィッド・ロドリゲス

菅井円加 - ニコラス・グラスマン、ほか

コロナ禍中の2020年に創られた作品からふたつのパートの抜粋。

舞台中央付近に置かれた一台の簡素なスタンドライト。ゴースト・ライトとはアメリカの劇場で、深夜の舞台に置かれ、一晩中灯される灯りのことだといいます。

シルヴィア・アッツォーニ -、アレクサンドル・リアブコはさすがの存在感。

「くるみ割り人形」でノーブルでキラキラな王子(ギュンター)を踊っていたマティアス・オベルリンと、群舞のなかでもパワフルで野生的な踊りが目を引いた長髪のダヴィッド・ロドリゲス。このまったくタイプの違うふたりの男性ダンサーによるパ・ド・ドゥもよかった。

「作品100―モーリスのために」

音楽:サイモン&ガーファンクル

世界初演:1996年

エドヴィン・レヴァツォフ - アレクサンドル・リアブコ

モーリス・ベジャール70歳の誕生日の記念ガラのために創られた作品。

懐かしいサイモン&ガーファンクルの「明日に架ける橋」が流れるなか、肩を組んで踊るエドヴィン・レヴァツォフ とアレクサンドル・リアブコ。とても親密であたたかなムードの作品で、リアブコの晴れやかな表情が印象に残りました。

 

「マーラー交響曲第3番」

音楽:グスタフ・マーラー

世界初演:1975年

菅井円加、カレン・アザチャン、ほか 

菅井円加さんが、記者会見で憧れのドリーム・ロールだったと語っていたこの作品。

赤いユニタード姿で厳かに踊る菅井円加さんがとにかく美しかった。

ラスト、ステージを上手から下手へとゆっくり歩く菅井円加さんを見つめつつ、舞台中央で幕切れのポーズを取るのは、ノイマイヤー自身。いつまでも忘れられないシーンになりそうです。

 

*『作品100―モーリスのために』以外すべて抜粋上演。

おわりに

2018年に『ジョン・ノイマイヤーの世界』を観たときも、観客の熱狂がすごかったことを覚えていますが、この日も最後はスタンディング・オベーション。芸術監督在任中に、来日してくれたことに感謝です。

 

ノイマイヤーのコレクションボックス。『ニジンスキー』『クリスマス・オラトリオ』『タチヤナ』『人魚姫』の4作品収録。

 

★最後までお読みいただきありがとうございました。