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東京バレエ団 秋山瑛×宮川新大『ジゼル』【バレエ鑑賞メモ】

東京バレエ団『ジゼル』を鑑賞しました。主演は秋山瑛さん、宮川新大さん。ホワイエのお花の装飾にも百合が使われていて、『ジゼル』の世界観が表現されていました。

公演概要

東京バレエ団『ジゼル』全2幕

2025年5月17日(土)14:00開演

東京文化会館大ホール


音楽:アドルフ・アダン
振付:レオニード・ラヴロフスキー(ジャン・コラーリ、ジュール・ペロー、マリウス・プティパの原振付による)
改訂振付(パ・ド・ユイット):ウラジーミル・ワシーリエフ
美術:ニコラ・ブノワ

指揮:ベンジャミン・ポープ
演奏:東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団

【キャスト】

ジゼル:秋山 瑛
アルブレヒト:宮川新大
 ヒラリオン:鳥海 創

バチルド姫:榊優美枝
公爵:安村圭太
ウィルフリード:南江祐生
ジゼルの母:奈良春夏

 ペザントの踊り(パ・ド・ユイット):中川美雪-陶山 湘、加藤くるみ-大塚 卓、中沢恵理子-後藤健太朗、長谷川琴音-岡﨑 司
 ジゼルの友人(パ・ド・シス):伝田陽美、三雲友里加、平木菜子、長岡佑奈、橋谷美香、富田紗永

ミルタ:政本絵美
ドゥ・ウィリ:金子仁美、中川美雪
 

【上演時間】
第1幕 14:00~15:00
休憩  20分
第2幕 15:20~16:15

別の物語が見えた秋山瑛さんのジゼル

秋山瑛さんのジゼル、素晴らしかった。

演じるダンサーによって物語の印象が異なるのも『ジゼル』の魅力のひとつ…ですが、それは主にアルブレヒトというキャラクターの解釈の違いによることが多い気がします。彼のジゼルへの思いは本気の愛なのか、単なる戯れなのか、というような。

でも今回の公演では、秋山さんが演じるジゼルによって、物語の印象が変わった気がする。

秋山さんの意図的な役作りなのか(わたしの単なる妄想なのか 笑)はわかりませんが……秋山さんが演じたジゼルは可憐で素朴な村の少女というよりは、村の中では少し異質な存在に見えた。可憐ではあるのですが、繊細で壊れやすそう、何かに集中してしまうと他が見えなくなる…バチルドのドレスの裾に頬ずりするような行為は、そんな気質の現れに思えてくる。

人はなぜか危うさのあるものに惹きつけられてしまうもの。ジゼルも強く人を惹きつける魅力を放っているのです。「魔性の」と言ってしまうと言い過ぎですが……貴族一行がジゼルの小屋の前に現れ、公爵がジゼルの顎をクイっとあげて、ジゼルの顔を見るシーン、ふたりの視線が交わる瞬間なども、なんだかドキッとさせられました。

アルブレヒトは宮川新大さん。宮川さんは飄々としているというか淡白というか、正直私の中ではプレイボーイや情熱的な役が似合うイメージはない 笑…のですが、この秋山ジゼルとの組み合わせにおいては宮川アルブレヒトは正解だった。愛情も魅力も濃厚なジゼルと、無自覚でニュートラルなアルブレヒトの組み合わせ。

婚約者がいながら、うっかりジゼルに魅入られてしまうアルブレヒトはどちらかというと受け身。

この版は演出的にも、アルブレヒトがジゼルに対して情熱的にふるまうシーンは少なめで、よけいにそう感じたのかもしれません。

そしてジゼルが正気を失うと、アルブレヒトは現実逃避。はじめは全然ジゼルの方を見られないんですよね。ウィルフリードに頼りっきり。ウィルフリードの胸に顔を埋めてた 笑。

2幕のジゼルの無重力感

1幕においても、秋山さんの踊りはとてつもなく軽やかでした。ジゼルのバリエーションのポアントでホップして前進するところなど、全体重が片足にかかっていることが信じられないような滑らかさ!

しかし、命を失った2幕のジゼルの浮遊感はまた別物だった。「重力がないみたい」ってよく使われる言葉ではありますが、驚異的な無重力感でした。まさにこの世のものではなかった…

この無重力感もってして表現される、肉体を失ってアルブレヒトへの愛だけになったジゼル。胸に迫るものがありました。

1幕、2幕を通して秋山さん、宮川さんのパートナーリングも素晴らしかった。ふたりでユニゾンで踊るところなど、脚の角度、高さなど全てがぴったりそろっていました。

そして宮川さんはいつもながらジャンプの着地がとにかくソフトで丁寧。2幕のアルブレヒトの見せ場であるアントルシャシスも見事でした。空中で交差する脚の軌跡がくっきりと見えて、高さもありながら着地は全く音がしていなかったです。

 

アンサンブルの魅力が堪能できる1幕

この版のペザントは、男女8人によるパ・ド・ユイット。アンサンブルが美しく、華やか。男性4人によるバリエーションも迫力がある!男性陣の中では大塚卓さんのクリーンな踊りが目を引きました。

このパ・ド・ユイットの他にジゼルの友人たち6人によるパ・ド・シスもあって、伝田陽美さんや三雲友里加さんが配役されているという……なんとも贅沢な1幕でした。

 

ウィリたちの群舞のすばらしさ

2幕のウィリたちの群舞もすごかった。指先まで動きの質感が揃ってる。ウィリたち全員が床に膝をついて上体と腕を繰り返し動かすシーンでは、ひとつの白い巨大な生き物が揺らいでるみたいに見えました。

この版ではミルタの威厳をことさら強調することなく、群舞としてのまとまりや動きを重視するような演出に思えました。

 

ジゼルの小屋と遠くにそびえる城館

美術はニコラ・ブノワ。その名を冠した「ブノワ賞」でもおなじみの、巨匠アレクサンドル・ブノワの息子さんらしい。

1幕の美術で特徴的なのは、ジゼルの住む集落の背景に描かれている、岩山の上にそびえる大きな城館。パンフレットによると、これは『ジゼル』初演時の美術を踏襲したものらしい。遠くに霞んで見える大きな城館=アルブレヒト侯爵のお城と、ジゼルの住む簡素な小屋の対比が印象深かったです。

美術というか演出でちょっと気になったのは、ヒラリオンがアルブレヒトの小屋から、アルブレヒトの剣を見つけ出すシーン。(普通は小屋の中に入ったヒラリオンが、剣を持って出てくる、という演出だと思うのですが)なんとヒラリオンが小屋の窓を開けて剣を見つけ、窓越しに剣を取り出すんですよね。なぜ窓から?いくらなんでも不用心だし、と突っ込みたくなった 笑。

おわりに

東京バレエ団の底力を観た気がする公演でした。

新国立劇場バレエ団に続いて、東京バレエ団、6月は牧阿佐美バレヱ団の公演もあるし、今年はジゼル・イヤーですね。『ジゼル』はいつ観ても、バレエの魅力がつまった作品だなと思います。

★最後までお読みいただきありがとうございました。