日本バレエ協会公演『ラ・エスメラルダ』を鑑賞しました。主演・エスメラルダは米沢唯さん。はじめて観た全幕『ラ・エスメラルダ』、色々と驚きがありました!
公演概要
『ラ・エスメラルダ』全3幕5場
2022年3月5日(土)18:00〜
会場:東京文化会館 大ホール
公益社団法人日本バレエ協会公演
2022都民芸術フェスティバル 参加公演
原振付:ジュール・ペロー
音楽:チェレーザ・プゥニ、リッカルド・ドリゴ他
復元振付・演出:ユーリ・ブルラーカ
バレエミストレス:佐藤真左美、角山明日香
総監督:岡本佳津子
照明:沢田 祐二
*録音音源使用
【上演スケジュール】
第1幕 18:00〜18:55
休憩20分
第2幕 17:15〜20:15
休憩20分
第3幕 20:35〜21:10
【キャスト】
エスメラルダ:米沢唯(新国立劇場バレエ団)
フェビュス(フェブ):中家正博(新国立劇場バレエ団)
ピエール・グリンゴワール:木下嘉人(新国立劇場バレエ団)
クロード・フロロ:遅沢佑介
カジモド:奥田慎也(法村友井バレエ団)
クロパン・スリフトゥ:荒井英之
フルール・ド・リ:玉井るい(新国立劇場バレエ団)
ダイアナ:飯塚絵莉(東京シティ・バレエ団)
アクテオン:藤島光太(谷桃子バレエ団)
ヴィクトル・ユゴーの小説『ノートル=ダム・ド・パリ』に基づいた『ラ・エスメラルダ』。ジュール・ペロー台本・振付による初演は1844年。その後は、プティパ、ワガノワ、ブルメイステルらによる改訂版が創られてきました。
今回上演されたユーリ・ブルラーカ演出・振付のバージョンはプティパ版の復刻とのこと。
3回の公演がありましたが、メインキャストは総入れ替え。私が観に行った回は、メインキャストは新国立劇場バレエ団勢。それぞれの回で、ガラッと顔ぶれが変わります。
3月6日ソワレの白石あゆ美さん、橋本直樹さん、清水健太さん、というKバレエ カンパニー卒業組?みたいなキャストも観てみたかった。
脇を固めているのは、オーディションで選ばれたダンサーたち。さまざまなバレエ団やフリーで活動するダンサーが参加していました。
タンバリンのバリエーションはなかった!
『ラ・エスメラルダ』の全幕は、今回はじめて観ました。おなじみのタンバリンのバリエーションのイメージと、ヴィクトル・ユゴーの『ノートル=ダム・ド・パリ』が原作…その程度の予備知識で観に行った私。
無知を晒すようでお恥ずかしいのですが、実際に観て驚いたことがふたつ。
驚いたこと その1
エスメラルダが、タンバリンを手に踊るシーンはたくさんあるものの、おなじみのバリエーションはなかなか出てこないと思っているうちに、終わってしまった…。あの曲すら出てこなかった。
調べてみると、このバリエーションは1954年にニコラス・ベリオゾフが改訂版を発表した際に、新たに振り付けたもので、版によっては出てこないらしい…。
おなじみのエスメラルダのバリエーション。
ローザンヌ国際バレエコンクール2019の佐々木須弥奈さん↓
驚いたこと その2
「ダイアナとアクティオンのパ・ド・ドゥ」が出てくる。これは以前から目にしていたような気もしますが、実際に劇場で目の当たりにするとやっぱり驚く。
パ・ド・ドゥが出てくるのは第2幕。フェブの婚約者で大貴族の令嬢フルール・ド・リの母の屋敷で催されているふたりの婚約を祝う宴の最中。
筋書きとは関係ないディベルティスマンが挿入されるのは、バレエでは普通のことではありますが、貧民窟とか、色に狂う宗教者とか、退廃ムードただよう中世のパリから一転、神話の世界って…。『白鳥の湖』とか『眠れる森の美女』なら本筋自体がファンタジーなので、あんまり違和感ないですが。
ちなみに、公演パンフレットにも「”ダイアナとアクテオン”ラ・エスメラルダ挿入の謎」という文章が掲載されていました。
そもそもこの場面はマリウス・プティパが「ラ・エスメラルダ」をロシアで蘇演する際に挿入した自作「カンダウル王」で既に振付ていたパ・ド・トロワが発端とされる。
そのプティパ版20世紀初頭になってアグリッピナ・ワガノワが再演する際にこのパ・ド・トロワをパ・ド・ドゥに改め、”ダイアナとアクティオンのパ・ド・ドゥ”として世に広まった。
『ラ・エスメラルダ』公演パンフレットより抜粋
謎はさておき、「ダイアナとアクティオンのパ・ド・ドゥ」この日のキャストは東京シティ・バレエ団の飯塚絵莉さんと谷桃子バレエ団の牧村直紀さん。ふたりともテクニックにキレがあり、爽快な踊りでした。
エスメラルダをめぐる4人の男
美しい踊り子・エスメラルダは、身分違いの王室射手隊長のフェブと惹かれあうが、エスメラルダに魅了された司教補佐フロロによってフェブは刺され、その罪を着せられたエスメラルダは死刑になる。
ざっくりとしたあらすじはこんな感じですが、今回上演されたのはハッピーエンド版。死んだと思ったフェブは生きており、国王の罷免状によってエスメラルダは死刑を免れます。
版によってあらすじもディテールもさまざまなようですが、主人公エスメラルダに惹かれる男性が4人も出てくるのが、この物語の特徴ではないかと思います。
フェブ(フェビュス):王室射手隊長
貴族の婚約者がいながら、美しいエスメラルダに惹かれ、婚約者にもらったスカーフをエスメラルダにプレゼントしてしまう最低男フェブ。今回上演された版では、エスメラルダを救って結ばれるという結末なのでまだマシですが、エスメラルダが死刑になる版なら、かなりひどい男ですね。
新国立劇場バレエ団の公演ではアクの強い役にキャスティングされることが多い中家正博さんの二枚目ぶりが新鮮でした。
グランゴワール:貧しい青年詩人
貧民窟に迷い込み、殺されかけたところをエスメラルダに助けられる貧乏詩人グランゴワール。気弱でぱっとしない感じが、バレエ に出てくる男性キャラクターとしては珍しく、なんだか憎めない。(グランゴワールは版によっては出てこないらしいです。)
木下嘉人さんがひょうひょうとした雰囲気で演じていて、とてもよかった。
フロロ:ノートルダム寺院の司教補佐
聖職者でありながら、美しいエスメラルダに惹かれて誘拐を企てた上、フェブを刺して、その罪をエスメラルダにきせるという極悪人。
フロロ役は元Kバレエカンパニープリンシパルの遅沢佑介さん。ほぼ踊らない役ですが、フロロのねちっこくいやらしい感じがうまくでていて、存在感がありました。
カジモド:ノートルダム寺院の鐘楼守
その容姿ゆえに、ノートルダム寺院の前に捨てられていたカジモドは、フロロに拾われて育てられる。フロロに恩義を感じており、エスメラルダ誘拐にも加担するが、エスメラルダの優しい心に触れて惹かれるようになる。最後は錯乱したフロロからエスメラルダを守り、フロロを死に追いやる。
深いドラマを感じさせるカジモドという存在。エスメラルダとフェブの恋物語に主軸を置いているこの版では、そこまでスポットはあたらないのですが…。
米沢唯さんはいつ観ても輝いている
『ラ・エスメラルダ』という作品自体に気を取られすぎて、肝心のエスメラルダにふれるのが最後になってしまいましたが、いつ観ても米沢唯さんは素晴らしい。揺るぎないテクニックも相変わらず。おなじみのバリエーションはありませんでしたが、かなり踊るシーンが多く見応えがありました。
婀娜っぽい感じは少なめで、明るくピュアな米沢さんのエスメラルダ。木下嘉人さん演じる気弱なグランゴワールとの掛け合いが、なんだか微笑ましく、フェブよりお似合いなのでは…と思ってしまいました。
おわりに
6月には牧阿佐美バレヱ団がローラン・プティ版『ノートルダム・ド・パリ』を上演予定です。日本でプティ版レパートリーにしているのは牧阿佐美バレヱ団のみ。今回の『ラ・エスメラルダ』と比較して観るのも面白そうです。
この公演、1日目は牧阿佐美バレヱ団キャスト。2日目はメインキャスト3人はゲストダンサーというキャスティング。ゲストダンサーの顔ぶれがすごい。エスメラルダはミハイロフスキーのアンジェリーナ・ヴォロンツォーワ、カジモドはパリ・オペラ座のステファン・ビュリヨン、フェビュスはボリショイのデニス・ロヂキン。
こちらはプティ版『ノートルダム・ド・パリ』。エスメラルダはオシポア、カジモドはボッレ!
★最後までお読みいただきありがとうございました。