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東京バレエ団 金子仁美 ×池本祥真『くるみ割り人形』【バレエ鑑賞メモ】

遅ればせながら…昨年12月に鑑賞した東京バレエ団の『くるみ割り人形』の鑑賞メモです。主演は金子仁美さん、池本祥真さん。

Kバレエカンパニーの『くるみ割り人形』の翌日に観たので、その違いが興味深かったです。

*写真はホワイエのデコレーションですが、斎藤友佳理版のくるみ割り人形のデザインはインパクト大!頭と口と歯が大きく、口元はちょっと獅子舞っぽい。これなら確実にくるみ割れますね。困ったような瞳もなんだか気になる…。

公演概要

『くるみ割り人形』全2幕 東京バレエ団
2022年12月17日(土)17:00開演
東京文化会館大ホール

芸術監督/改訂演出/振付:斎藤友佳理(レフ・イワーノフ及びワシーリー・ワイノーネンに基づく)
音楽:ピョートル・チャイコフスキー

台本:マリウス・プティパ(E.T.A.ホフマンの童話に基づく)

舞台美術:アンドレイ・ボイテンコ

装置・衣裳コンセプト:ニコライ・フョードロフ
指揮:フィリップ・エリス

管弦楽:東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団

児童合唱:NHK東京児童合唱団
協力:東京バレエ学校
【キャスト】

マーシャ:金子仁美

くるみ割り王子:池本祥真

ドロッセルマイヤー:柄本弾

ピエロ:後藤健太朗

コロンビーヌ:工桃子

ウッデンドール:海田一成
マーシャの父:ブラウリオ・アルバレス

マーシャの母:政本絵美

弟のフリッツ:上田実歩

ねずみの王様:岡﨑司
スペイン:三雲友里加、宮川新大

アラビア:榊優美枝、安村圭太

中国:中沢恵理子、加古貴也

ロシア:二瓶加奈子、玉川貴博、鳥海創

フランス:中川美雪、長岡佑奈、星野司佐

花のワルツ(ソリスト):平木菜子、中島映理子、上田実歩、中島理子、ブラウリオ・アルバレス、和田康佑、岡﨑司、南江祐生
【上演スケジュール】

第1幕 55分

休憩 25分

第2幕 50分
2019年に芸術監督斎藤友佳理さんの演出・振付で新制作された東京バレエ団の『くるみ割り人形』。ロシアと縁の深い斎藤友佳理さんの演出だけあって、主人公の少女の名前はクララではなくマーシャ、美術・衣裳はロシアで製作するなど、ロシア色の濃いバージョンになっています。

感想メモ

マーシャと王子=くるみ割り人形のラブストーリー

『くるみ割り人形』には数多くのバージョンがありますが、、クララ(マーシャ)と金平糖の精を同じダンサーが踊るかどうかで、大きく2分されますよね。
東京バレエ団は同じダンサーが踊るバージョン…というか、「金平糖の精」自体が配役表にありません。マーシャはお菓子の国で王子と踊るときも金平糖の精ではなくて、マーシャのままという設定(衣裳は金平糖の精のようなチュチュに変わりますが)。当然踊るダンサーも同じです。
今回はじめて観た斎藤版はマーシャと王子(=くるみ割り人形)のラブストーリーという印象がとても強かったです。
マーシャと王子がふたりで踊る1幕のアダージオでは愛情の高まりを感じさせ、3幕のグラン・パ・ド・ドゥでその愛が結実する。そんなイメージです。
可憐な金子仁美さん、一途さを感じさせる池本祥真さん。ふたりとも役柄に合っていました。
クラシカルな振付ですが、ダイナミックなリフトが組み込まれているのが印象的。グラン・パ・ド・ドゥには大技リフト3連発のような振付も。観ているだけでも心臓に悪い 笑。

マーシャ役の金子仁美さんのインスタグラムより。この日の主演のふたり。

 
 
 
 
 
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意外に出番の少ないドロッセルマイヤー

ドロッセルマイヤーは柄本弾さん。黄色と紫の衣裳、片方の眉だけを上げたメークで登場。やはり独特の存在感があります。
でもこのバージョンのドロッセルマイヤー、2幕には登場してない?気がついたら舞台にいませんでした。
1幕でもドロッセルマイヤーはわりと控えめ。他の版では、物語全体を動かす狂言回しの役割を担っていることも多いですが、斎藤版のドロッセルマイヤーはマーシャを遠くから見守っている感じ。

もうひとつ1幕で特徴的なのは、マーシャの弟のフリッツをはじめとする小さな男の子やおもちゃの兵隊を、女性ダンサーが踊っていること。
おもちゃの兵隊はなんとポアント。騎馬隊も登場するのですが、ポアントの踊りが馬の蹄っぽく見えてくるのが面白い。(ちょっと、パリ・オペラ座バレエの『PLAY』に出てくるポアントの鹿を思い出した。)

雪の国は美しく深い森の中

雪の国では雪の精たちのコール・ド・バレエとマーシャと王子が踊ります。

東京バレエ団のコール・ド・バレエの端正な美しさを堪能しました。
雪の精たちのチュチュは釣鐘型で径が大きく、踊り合わせて揺れるさまが印象的でした。でもあのチュチュで高速で回ったり跳んだりするのは大変そう…。
前日に観た熊川版が猛吹雪だったのに対して、雪はあまり降らなかった。最後の方で粉雪程度。
この雪の国の美術がとても美しかったです。モノトーンで描かれた深い森の背景が見事。
東京バレエ団YouTubeチャンネルの、衣裳や装置のメーキング映像に、この雪の国の背景を描く工程も映っていました。こんな大きなスクリーンも手描きなんですね!

【メイキング映像】舞台装置製作Ver. ――東京バレエ団「くるみ割り人形」 - YouTube

お菓子の国はクリスマスツリーの世界

マーシャ=クララが夢の国に向かう乗り物は、Kバレエカンパニーの熊川版はそり、新国立劇場バレエ団のイーグリング版は気球。斎藤版はなんと船でした!
ドロッセルマイヤーに導かれないかわりに、マーシャと王子と一緒に船に乗ってお菓子の国までついてくるのは、ピエロ、コロンビーヌ、ウッデンドールの人形3人組。1幕でドロッセルマイヤーが子供たちに披露する機械仕掛けの人形たちです。
コロンビーヌの工桃子さんが素晴らしかった!
いわゆる人形振りなのですが、腕や脚の先だけでなく、腰回りの動きまでリアルに人形ぽかった。

一行がたどり着くお菓子の国は、クリスマスツリーの世界という設定。クリスマスツリーの背景に窓が開いていて、各国の踊り手が顔を覗かせているという面白い美術でした。お子さんたちが喜びそう。

各国の踊りでは、スペインにプリンシパルの宮川新大さんが登場!このバージョンのスペインは衣裳も含めてドン・キホーテっぽくて、宮川さんのバジルを観たような得した気分に。

各国の踊りのあと、花のワルツでガラッと場面転換するのも新鮮。
お菓子の国までのカラフルではっきりした色使いから一転、ピンク、ラベンダーやペールグレーなどの淡いトーンになります。公演パンフレットによると「このデザインは、1892年のイワーノフによる初演版へのオマージュによるものだそう。」とのこと。

初演はこんなイメージだったのですね。

花のワルツのソリストでは中島映理子さんの大きな踊りが目を引きました。

ダイナミックな場面転換

斎藤版は全体を通してダイナミックな場面転換が多かった印象です。

例えば広間からマーシャの部屋、夢の国からマーシャの部屋への場面転換。新国立劇場バレエ団のイーグリング版ではマーシャの部屋は舞台前方に小さいコーナーとして設けられていますが、斎藤版では舞台全体が一挙にマーシャの部屋になります。

最後に夢の国でグラン・パ・ドゥを踊ったあと、マーシャが自分の部屋で目覚めるところは、驚くほどの早替え。衣裳もヘアスタイルも変わっている。どうやっているんだろう?

 

会場で東京バレエ団のLINEの友達登録するともらえたマーシャクリアホルダー。これがマーシャの部屋。かわいい子供部屋ではなく、ほの暗くてちょっと寂しいような独特のムードがあるのも、このバージョンの世界観を表しているように感じました。

特別企画“「くるみ割り人形」、舞台装置の秘密"が面白かった!

この日の公演後に、クリスマス特別企画として“「くるみ割り人形」、舞台装置の秘密"がありました。前日のKバレエでもスペシャル・トークがあったし、なんだかラッキー。
この企画は面白かった!

技術監督の足立好治さんによる解説と、めったに見られない舞台転換をみることができました。足立さんはお話上手で、笑いを交えつつの解説がわかりやすかった。

 

以下は印象に残った内容のメモ。

・普段目にする機会は少ないが、真紅のオペラカーテンの後ろには”板緞”といわれる板のような緞帳がある。大ホールの”板緞”は画家の脇田和によるもの。

・”板緞”は舞台転換の音が客席に響かないように、遮音幕として使われることもある。

・スクリーンなどの装置を吊る”パトン”。大ホールには49本のパトンがありコンピュター制御されている。

・舞台上部から降りてくる5本のブリッジに、1本あたり約50個の照明がついている。舞台全体では約500個の照明を使っている。

・ダンサーにあてる照明、フォロースポット。東京文化会館の場合5階からあてるが60mぐらいの距離がある。特に『ボレロ』は難しい。(確かに難しそう!)

・公演に関わるスタッフは約60人。オーケストラや出演者を含めると、総勢200人が、ひとつの舞台を創り上げている。

 

最後に足立さんは、舞台の技術や照明などの裏方は高齢化が問題になっていて、今日の企画でこの世界に興味をもったら、ぜひ僕達の仲間になりませんかと話されていました。

会場にはお子さんの姿も多く、こういう企画を続けていれば必ず効果がでる気がした。

『バヤデール』に続いて2回目の開催ということですが、毎回やってほしいぐらい。できればチケット発売時に告知してほしいですね。

おわりに

はじめて観る斎藤版、新鮮でした!

この公演、客席に外国の方が多くて驚きました。旅行者なのか在住者なのかはわかりませんが、やっぱり12月といえば『くるみ割り人形』なんでしょうね。

 

バレエショップのドゥッシュドゥッスゥで東京バレエ団グッズが買える!
このTシャツの着用モデルはこの日の王子、池本祥真さん。

 

今この本を読んでます。斎藤友佳理さんの激動の人生…面白いです!

【中古】ユカリュ-シャ 不屈の魂で夢をかなえたバレリ-ナ /文藝春秋/斎藤友佳理(文庫)

★最後までお読みいただきありがとうございました。