コロナ禍で踊る場所を失った若いダンサーたちが、自ら企画した1日限りのステージと、本番までの40日間を追ったドキュメンタリーを配信する「SPOTLIGHT 私たちは踊りたい〜若きバレエダンサーたちのステージ&ドキュメンタリー」プロジェクト。
かなり前に配信を視聴していたのですが、記事にするタイミングを逸してしまい…改めて、配信内容や若いダンサーたちのその後などについて書きたいと思います。
「SPOTLIGHT 私たちは踊りたい」概要
留学先から強制帰国させられたり、バレエ団との契約が取り消しになったり…コロナ禍は若いダンサーたちにも大きな影響を与えました。
そんな10代から20代のダンサー11人が踊る場所を求めて自ら企画したステージ。バレエ・チャンネルが協力し、クラウドファンディングなどでの支援を受けて、ステージ本番は2020年10月12日に無事終了。12月末にドキュメンタリー映像が完成し、2021年2月28日まで有料配信されています。
ご視聴はこちらから。視聴料は1500円。
全編:約1時間48分
00:00〜05:30 イントロダクション
05:30〜1:13:35 ステージ本編(エンドロール含む)
1:13:35〜1:48:37 本番までのドキュメンタリー
収録場所:THE HALL YOKOHAMA
出演者
五十嵐脩(オーストラリア・バレエ・スクール卒業)
玉井千容(ヨーロピアン・スクール・オブ・バレエ在学中)
川上 環(チューリッヒ・ダンス・アカデミー卒業)
田中玲奈(ジョン・クランコ・スクール卒業)
中島映理子(クイーンズランド・バレエ)
池田紗弥(オーストラリア・バレエ・スクール卒業学年)
竹嶋梨沙(オーストラリアン・コンサヴァトリー・オブ・バレエ卒業/東京シティ・バレエ団 ファーストアーティスト)
中村淳之介(元タルサ・バレエ II)
森本晃介(ハンブルク・バレエ・スクール卒業)
伊藤杏珠(ハンガリー国立バレエ・スクール卒業)
栗原 柊(元 コロンビア・クラシカル・バレエ)
ステージプログラム
1.「パリの炎」よりグラン・パ・ド・ドゥ :伊藤杏珠 / 栗原 柊
2.「アルレキナーダ」より男性ヴァリエーション :五十嵐脩
3.「海賊」よりオダリスクのパ・ド・トロワ
第1Va:池田紗弥、第2Va:竹嶋梨沙、 第3Va:川上 環
4.「エスメラルダ」のヴァリエーション :中島映理子
5.「ライモンダ」よりハンガリアンのヴァリエーション :田中玲奈
6.「ラ・シルフィード」よりパ・ド・ドゥ :玉井千容 / 五十嵐脩
7.「タリスマン」より男性ヴァリエーション :栗原 柊
8.「ジゼル」第2幕よりアルブレヒトのヴァリエーション :森本晃介
9.「パキータ」より
エトワール:中島映理子 /中村淳之介
ソリスト: 川上 環 、竹嶋梨沙、 玉井千容、 池田紗弥、 田中玲奈 、伊藤杏珠
10.フィナーレ:出演者全員
海外のスクールで学んだり、バレエ 団に入団して舞台に立つことで鍛えられていく、若きダンサーやダンサーの卵たちにとって、その機会が与えられないことは本当に大きな打撃でしょう。そんな中で自ら、踊る機会を創り出そうという行動力が素晴らしい。
出演者たちは、海外のバレエスクール在学中の方から、すでにプロとしてのキャリアがある方まで様々。オンラインでリハーサルを行い、全員で顔を合わせてのリアルなリハーサルは数回だったようですが、男女のパ・ド・ドゥやパキータの群舞などは息のあった踊りを見せてくれました。躍動感のあるフィナーレ、ちょっとユーモラスなエンドロールも素敵でした。
若きダンサーたちのその後
バレエチャンネルには、ダンサーひとりひとりのインタビューが掲載されているのでリンクを張っておきます。
インタビューを読むと、ステージ本番の10月当時は、ほとんどのダンサーは地元でレッスンを受けているという状態でした。その後もコロナの感染拡大は収まっていませんが、彼らが今どうしているのか、現在の状況をまとめてみました(*)。
*ご自身のSNS、コンクール情報などからわかる範囲での2021年2月13日現在の状況です。
五十嵐脩さん
【SPOTLIGHT】ダンサーズ・ファイル〈1〉五十嵐 脩〜表情ゆたかな個性派ダンサー。「僕は光を浴びて踊りたい」〜 | バレエチャンネル
今回の企画の発案者、五十嵐脩さん。ステージでは表情豊かで、「ラ・シルフィード」のマイムがとても上手でした。
ステージ本番前には益子倭さんのYouTubeチャンネルにも、中島映理子さん、玉井千容さんと共に出演。五十嵐脩さんは志村昌宏、有子バレエスタジオ出身で、益子倭さん(元Kバレエカンパニー)の後輩になります。
バレエチャンネルのインタビューではコロナの影響でドイツのバレエ団との契約が取り消され、日本のバレエ団への入団を考えていると語っていましたが、12月にKバレエ・カンパニーにアーティストとして入団しています。
プロフィールページ↓
K-BALLET COMPANY / K-BALLET FRIENDS
*追記
正確な時期はわかりませんが、2022年春にKバレエ・カンパニーを退団。現在はシンガポール・バレエで活躍されているようです!
玉井千容さん
【SPOTLIGHT】ダンサーズ・ファイル〈6〉玉井千容~ヨーロピアン・スクール・オブ・バレエ在学中「これからもスキルアップし続けたい」~ | バレエチャンネル
五十嵐脩さんと踊った「ラ・シルフィード」の軽やかな踊りが印象的だった玉井千容さん。オランダのヨーロピアン・スクール・オブ・バレエ在学中、バレエ団への就職活動に励んでいた最中に、コロナの影響で日本に帰国することに。
インスタグラムの昨年大晦日の投稿は東京のスタジオで撮影された動画でした。
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*最近「Amsterdam」というタイトルの、海外と思われるスタジオで撮影されたストーリーズがアップされているのですが…もしかするとオランダに戻れたのでしょうか?それとも過去の動画?)
*追記
2022年からはルーマニアのシビウ・バレエ団で活躍されているようです。
川上 環 さん
【SPOTLIGHT】ダンサーズ・ファイル〈8〉川上環〜「たまちゃんみたいになりたい!」子どもたちの言葉を力にして〜 | バレエチャンネル
チューリッヒ・ダンス・アカデミー卒業の川上環さんは、コロナ感染拡大直前に開催された2020年のローザンヌ国際バレエコンクールのセミファイナリスト。体の2/3は脚ではないかと思えるほどの、長くて美しい脚の持ち主です。
インタビューではコロナ禍でバレエ団からのオファーもキャンセルになり、一時はバレエをやめたいと思いつめた、と語っていた川上環さん。
近況を調べると、2021年1月に開催されたヴィクトワール バレエ コンペティション神戸2021のシニア部門とモダン・コンテンポラリー部門の2部門で1位入賞、ミュンヘングランプリ(Munich Grand Prix)の参加権を獲得されていました。
例年6月に開催されているミュンヘングランプリですが、ドイツは現在ロックダウン中で、今年の開催は未定のようです。コロナの状況が改善して、無事開催されるといいですね。
3:45あたりから川上環さんが登場します↓
*2021.9追記
2021/2022シーズンから新国立劇場バレエ団に新加入されるようです!
*2022.8追記
2021/2022シーズンで新国立劇場バレエ団を退団されています。
田中玲奈さん
【SPOTLIGHT】ダンサーズ・ファイル〈10〉田中玲奈~「気がつけばいつでも踊っています」~ | バレエチャンネル
長身で手脚が長く、立体的なボディ。日本人離れしたスタイルと独特のムードがある踊りが印象的だった田中玲奈さん。
ジョン・クランコ・スクールを卒業し、ミハイロフスキー・バレエに入団予定でしたが、コロナ禍になりロシア入国の許可が出ないまま日本で過ごしているということでした。インスタグラムを見ると、新年も日本で迎えたようです。
田中玲奈さんのお姉さんはなんと同じミハイロフスキー・バレエの田中美波さん。
姉妹でミハイロフスキー!…お姉さんはロシアに行かれたままのようです。田中玲奈さんも早くロシアに入国できますように。
『ライモンダ』のバリエーションが似合っていた田中玲奈さん。素顔はあどけないのですが、踊ると大人っぽいムードがあります。
こちらが、お姉さんの田中美波さん。
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田中美波さんは、2019年秋の日本公演でも来日。私が観に行った公演では『眠りの森の美女』の宝石のゴールドを踊っていました。
鑑賞レポートはこちら↓
中島映理子さん
【SPOTLIGHT】ダンサーズ・ファイル〈2〉中島 映理子〜パリ・オペラ座からクイーンズランド・バレエへ~「海外で学んだことを日本のお客さんに届けたい」〜 | バレエチャンネル
中島映理子さんはパリ・コンセルヴァトワールに留学後、パリ・オペラ座の契約ダンサーを経て、2019年からオーストラリアのクイーンズランド・バレエに所属しています。ステージでも美しいプロポーションと華やかな存在感が際立っていました。
現在もクイーンズランド・バレエには戻ることはできていないようですが、このプロジェクトの後、こんな公演にも出演していました。
Ballet Promenade | Performances
中島映理子さんは益子倭さんと『海賊』のグラン・パ・ド・ドゥを踊っています。共演者は秋元康臣さん、池本祥真さん、八幡顕光さんという豪華な顔ぶれ!(観たかった…)
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インスタグラムでは、クイーンズランド・バレエの同僚からのコメントも多く、絆の強さを感じさせます。早くバレエ団に合流できますように。
*2021.3.9追記
昨日発表された東京バレエ団のダンサー入団のお知らせに、「中島映理子」というお名前が!ご本人のインスタグラムのプロフィールにも東京バレエ団のオフィシャルアカウントが追加されています。
池田紗弥さん
【SPOTLIGHT】ダンサーズ・ファイル〈3〉池田紗弥〜1秒1秒、踊る幸せをかみしめて〜 | バレエチャンネル
多くのバレエ ダンサーを輩出しているソウダバレエスクールで学んだ後、14歳で入学したオーストラリア・バレエ・スクールの最終学年の年にコロナ禍にあって帰国し、戻れなくなってしまった池田紗弥さん。ステージでは、ゆったりとしたパキータのソロがとてもお似合いでした。
今回のプロジェクト以降はインスタグラムの更新がなく、現在の状況は不明ですが、復学できる日が早く来るように願っています。
2018年の投稿ですが、バレエチャンネルのインタビューにも掲載されていた2枚目の写真がとても可愛い…
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*2021.9追記
2021/2022シーズンから新国立劇場バレエ団に新加入されるようです!
竹嶋梨沙さん
【SPOTLIGHT】ダンサーズ・ファイル〈4〉竹嶋梨沙~感謝の気持ちを踊りに託して~ | バレエチャンネル
小柄ながら溌剌とした印象の竹嶋梨沙さん。入団許可を得ていたドイツ・チューリンゲン州劇場バレエ団の契約はコロナのために取り消されてしまいましたが、帰国後日本でも就職活動を行い、プロジェクト本番を迎える時には東京シティバレエ団にファースト・アーティストとして入団が決まっていました。
話題になった今年1月の公演「ウヴェ・ショルツ・セレクションⅡ」や、5月の公演「柳家花緑の落語バレエ「鶴の池」―バレエ「白鳥の湖」」(花緑さんは小林十市さんの弟さん)など、最近注目の東京シティ・バレエ団。竹嶋梨沙さんのこれからの活躍も楽しみです。
*2022.11追記
2022年秋から、ニューヨークのAjkun Ballet Theatreに入団されたようです。
中村淳之介さん
【SPOTLIGHT】ダンサーズ・ファイル〈7〉中村淳之介〜成長を信じて踊り続けたい〜 | バレエチャンネル
2016年のローザンヌ国際バレエコンクールで6位入賞した中村淳之介さんを覚えている方も多いのではないでしょうか。
5年前のローザンヌでは華奢な少年でしたが、ステージでは逞しく成長した姿で堂々とした踊りを観せてくれました。
中村淳之介さんはカナダ・ナショナル・バレエ・スクール留学を経て、タルサ・バレエ IIに入団。新しい環境を求めて2020年にカンザス・シティ・バレエに移籍予定でしたが、コロナ禍で契約が取り消しに。
インタビューでは、その後オンラインオーディションに合格し2021年1月からハンガリー国立バレエに入団が決まったとありました。ハンガリー国立バレエのホームページにはコールドバレエとしてすでにお名前があります。
余談ですが、”グランド・スジェ”には今回のメンバー森本晃介のお兄さん、森本亮介さんのお名前も。
ハンガリーでは、昨年11月4日に2度目の緊急事態宣言が出され、入国制限が行われているようです。中村淳之介さんがすでにハンガリーに行かれたかどうかは確認できませんでしたが、一日も早くバレエ団に合流できるようにお祈りしております。
*追記
2022/23シーズンから、ウィーン国立バレエ団に移籍されています!
森本晃介さん
【SPOTLIGHT】ダンサーズ・ファイル〈5〉森本 晃介〜ハンブルク・バレエ・スクール卒業「海外でダンサーになることが僕の夢」〜 | バレエチャンネル
ハンブルク・バレエ・スクールの最終学年途中で帰国することになった森本晃介さん。入団予定だったチューリンゲン・バレエとの契約も取り消しに。
現在も出身の田中バレエ・アートでレッスンを続けているようですが、昨年10月下旬に開催されたYAGP(ユース・アメリカ・グランプリ)の日本予選シニア部門の2位に入賞!YAGPでも「SPOTLIGHT」と同じく『ジゼル』のアルブレヒトを踊っています。
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長身で恵まれたスタイルの持ち主で、佇まいにも気品がある森本晃介さん。世界で活躍できそうな森本晃介さんの今後に注目です。
*追記
2022/23シーズンから新国立劇場バレエ団に入団されています。
伊藤杏珠さん
【SPOTLIGHT】ダンサーズ・ファイル〈9〉伊藤杏珠〜未来に向けて踊りたい!~ | バレエチャンネル
公演のドキュメンタリーでは、明るいキャラクターが可愛かった伊藤杏珠さん。栗原柊さんとの『パリの炎』のグラン・パ・ド・ドゥが似合っていました。
ハンガリー国立バレエ・スクール、オーランド・バレエ・スクールで学び、ナッシュビル・バレエから研修生の契約を得ていたものの、コロナ禍で契約取り消しに。
インタビューでは、日本に帰国してから、ベルギー・アントワープ王立バレエ学校のビデオ審査に合格し、渡航できるようになるのを待っている状態と語っていました。
インスタグラムには日本でのレッスンや舞台を楽しんでいる様子がアップされています。
年末には宝塚のベガ・ホールで開催されたSBCバレエコンクールに出場し、高校生以上の部門で1位を獲得。
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栗原 柊さん
【SPOTLIGHT】ダンサーズ・ファイル〈11〉栗原柊〜バレエがあれば、舞台さえあれば、居場所はどこでもいいんです〜 | バレエチャンネル |
YAGP(ユースアメリカングランプリ)2017のニューヨークファイナルでTOP12に入賞した栗原柊さん。観客の盛り上がりがすごい…
今回のステージではYAGPの時と同じ『タリスマン』のバリエーションを踊り、エネルギッシュなジャンプと回転、躍動感あふれる踊りを観せてくれました。
YAGPの後、栗原柊さんはヒューストン・バレエ・アカデミーに留学し、その後コロンビア・クラシカル・バレエに入団しましたが、アーツ・バレエ・オブ・フロリダに移籍するタイミングでコロナ禍に。契約は取り消しにはなっていないものの、未だ渡米できない状態のまま、日本でレッスンを続けているようです。インタビューでは、待機があまり長期化するようなら、日本で踊ることも考えると話していました。日本のバレエ団で活躍する日も近い…?
1月の投稿。相変わらず跳んでます。
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*2020.2.24追記
栗原柊さんも「やまチャンネル」に出演していました。「テクニック講座」で、益子倭さんとともに大技を次々に披露!
*2021.3.25追記
栗原柊さんはKバレエカンパニーにファースト・アーティストとして入団しました。
入団情報をうっかり見逃していましたが、Kバレエカンパニーの『白鳥の湖』を観に行ったら出演されてました!五十嵐脩さんといい、「やまチャンネル」に出るとKバレエに入団できるのか?!
おわりに
映像の中で、五十嵐脩さんが「自分たちには目標が必要だ」とおしゃっていました。今回、ステージという目標は達成しましたが、コロナ禍はまだ先が見えない状態が続いています。そんな中、ダンサーたちのその後を調べてみると、みんなそれぞれに自分なりの新たな目標を見つけて頑張っている様子が伺えました。
また近い将来、彼らの踊りが見られることを願っています。
★最後までお読みいただきありがとうございました。