Kバレエカンパニーの『カルメン』を鑑賞しました。6月2日(木)のソワレ、主演は日髙世菜さん、石橋奨也さんです。
ほぼ同じキャストだった千秋楽6月5日(日)の公演後、ドン・ホセを踊った石橋奨也さんが、プリンシパルに昇格しました!
公演概要
Spring 2022『ロミオとジュリエット』全2幕 Kバレエカンパニー
会場:Bunkamura オーチャードホール
2022年6月2日(木) 18:30開演
芸術監督/演出/振付:熊川哲也
音楽:ジョルジュ・ビゼー
原台本:アンリ・メイヤック/リュドヴィク・アレヴィ(プロスペル・メリメの小説による)
舞台美術デザイン:ダニエル・オストリング
衣裳デザイン:マーラ・ブルーメンフェルド
照明デザイン:足立亘
指揮:井田勝大
管弦楽:シアター オーケストラ トーキョー
【上演スケジュール】
第1幕 65分
休憩 25分
第2幕 50分
【キャスト】
カルメン:日髙世菜
ドン・ホセ:石橋奨也
エスカミーリョ:栗山廉
ミカエラ:岩井優花
モラレス:吉田周平
スニガ:ニコライ・ヴィユウジャーニン
フラスキータ:小林美奈
メルセデス:戸田梨沙子
ダンカイロ:グレゴワール・ランシェ
レメンダード:本田祥平
娼婦:吉田早織
熊川哲也版の『カルメン』の初演は2014年。
かなり以前に観た、中村祥子さん主演のKバレエカンパニーのローラン・プティ版『カルメン』が素晴らしかった記憶があったのですが、調べてみたら、熊川版誕生よりはるか前の2007年の公演でした。熊川版『カルメン』ははじめて鑑賞しました。
今回の主演は、浅川紫織×髙橋裕哉、日髙世菜×石橋奨也、小林美奈×堀内將平、成田紗弥×山本雅也の4組。カルメンは、4年ぶりの全幕主役が話題の浅川紫織さん以外の3人は初役と、フレッシュな配役でした。
プティ版やアロンソ版と異なり、熊川版は全2幕のグランド・バレエで、振付も比較的クラシカル。悲劇版『ドン・キホーテ』のような趣です。ビゼーのお馴染み曲の数々もたっぷり聴けて楽しめました。
真の主人公はドン・ホセ?
タイトル『ドン・ホセ』でもいいのでは?と思うほど、破滅に向かうドン・ホセが印象的に描かれる熊川版『カルメン』。拳銃を手にしたドン・ホセの謎めいたシーンからスタートした舞台は、ドン・ホセがカルメンの亡骸を抱くシーンで幕が降ります。
石橋奨也さんのドン・ホセ、よかったです。真面目なホセがカルメンに翻弄され、徐々に追い詰められていく姿は鬼気迫るものがありました。正確で端正な踊りも、ホセの真面目さに合っていました。
今まで観た役では『カルミナ・ブラーナ』の神父、『クラリモンド〜死霊の恋』のセラピオン(こちらも聖職者)が印象に残っている石橋奨也さん。抑圧された人間に宿る狂気、のような役柄が上手い。
日髙世菜さんは、いつ観てもほんとうにラインが美しい。大柄で華やか、まわりを否応なく惹きつけてしまうカルメンが似合っていました。
密輸業者のアジトにいたドン・ホセが、幼馴染ミカエラの持ってきた手紙で母親の重病を知る場面。カルメンは手紙を読んで、ドン・ホセに故郷に帰るよう命じます。エスカミーリョに惹かれたカルメンが、嫉妬にかられるホセを厄介払いしたともいえますが、日髙世菜さんのカルメンは、ドン・ホセに対する思いやり、人情味みたいなものを感じさせました。
最後にカルメンがホセに撃たれるシーンでは、倒れる時のドサッという大きな音、床に叩きつけられたような無残な姿が衝撃的だった…。余計な感想ですが、あの倒れ方は相当痛そう…。
ここ一年ぐらい日髙さんの出演する公演を観てきましたが、今回の公演ではカーテンコールのときの表情がちょっといつもとちがっていたような…。ちょっと戸惑いのようなものが浮かんでいた気がしたのですが、私の気のせいでしょうか。『カルメン』の世界から戻って来ていなかったのかな。
日髙世菜さんのインスタグラムより。
1幕のカルメンの白い衣裳、素敵だった。石橋奨也さんのまなざしもいい。
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エスカミーリョは風と共に去りぬ
ドン・ホセの恋敵、闘牛士エスカミーリョ。熊川版のこのキャラクター、ちょっと面白かった。エスカミーリョは酒場、密輸業者のアジト、闘牛場と、3回登場。3回とも、颯爽と現れて派手に踊った後、あっという間にその場を走り去る(アジトから立ち去るときは、登場のときに着ていたマントを忘れていった)。キザでイケイケだけど淡白、みたいな感じ 笑。粘着質のドン・ホセとは好対照です。
この日のエスカミーリョは栗山廉さん。普段は俺様感をあまり感じないダンサーなので、エスカミーリョはどうかな…と思ってましたが、とてもよかったです。踊るだけ踊って、あっさり帰っていくエスカミーリョにぴったりで、なによりかっこよかった!
闘牛士のきらびやかな衣裳はもちろん、2幕冒頭のシンプルな黒い衣裳、そしてヒゲも似合っていました。
2幕の密輸業者のアジトでカルメンと踊るシーンも華やかで素敵でした。カルメンの日髙さんは身長があるうえに、手脚も長く、踊りも大きく、組んでいるパートナーが実際より小さく見えてしまうことが多いですが、栗山さんとはバランスがとれていました。
栗山廉さんのインスタグラムより。ヒゲが渋い。王子役ももちろん似合いますが、個人的にはこの路線を邁進してほしい。
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ドン・ホセの同僚、モラレス役の吉田周平さんの躍動感あふれる踊りや酔っ払いの演技、カルメンの仲間のフラスキータ役の小林美奈さんの婀娜っぽさ、衛兵と大道芸人役の栗原柊さんのキレのある踊りも印象に残りました。
シンプルで立体的な舞台美術が美しい
舞台美術は派手な色彩や装飾はなく、非常にシンプル。煙草工場前、密輸業者のアジト、最後の闘牛場前は、単純化された建物と舞台の奥の方に回り込んでいくような通路との組み合わせ。
アースカラーの乾いた質感の舞台が、そこで繰り広げられているドロドロした愛憎劇を引き立てているように感じました。
特に印象的だったのはラストシーン。打たれて床に倒れる赤い衣裳のカルメン、円筒型の闘牛場の建物と奥に続いていく塀、舞台のサイドから差し込む夕日のような光、立ちすくむドン・ホセ…。まるで1枚の絵のようでした。
おわりに
今回の『カルメン』の全キャスト配信、K-BALLET Optoの旗揚げ、さらに来シーズンの『クレオパトラ』に熊川哲也さんが出演決定!と話題が絶えることのないKバレエカンパニー。
ホワイエにはすでに『クレオパトラ』の展示がありました。日髙世菜さんのビジュアルがすごい迫力。今から楽しみです!
Autumn Tour 2022『クレオパトラ』 | K-BALLET COMPANY / K-BALLET FRIENDS
【2022.6.15追記】
Kバレエカンパニーの公式YouTubeチャンネルに、熊川哲也さん主演の『カルメン』のハイライトがアップされています!
Tetsuya Kumakawa Special Highlights fr "Carmen" / 熊川哲也「カルメン」スペシャルハイライト - YouTube
2014年初演時の舞台、主演は熊川哲也さん!
★最後までお読みいただき、ありがとうございました。