Kバレエカンパニーの『クレオパトラ』を鑑賞しました。10月28日(金)の公演、クレオパトラは日髙世菜さん、熊川哲也さんがジュリアス・シーザー役で出演!
公演概要
『クレオパトラ』全2幕 Kバレエカンパニー
会場:Bunkamura オーチャードホール
2022年10月28日(金) 14:00開演
芸術監督/演出/振付/台本:熊川哲也
音楽:カール・ニールセン
舞台美術デザイン:ダニエル・オストリング
衣裳デザイン:前田文子
照明デザイン:足立亘
指揮:井田勝大
管弦楽:シアター オーケストラ トーキョー
【上演スケジュール】
第1幕 65分
休憩 25分
第2幕 60分
【キャスト】
クレオパトラ:日髙世菜
プトレマイオス:吉田周平
ポンペイウス:ニコライ・ヴィユウジャーニン
ブルータス:石橋奨也
アントニウス:堀内將平
オクタヴィアヌス:山本雅也
オクタヴィア:小林美奈
ジュリアス・シーザー:熊川哲也
3人の官僚:杉野慧、グレゴワール・ランシェ、奥田祥智
選ばれた神殿男娼:栗山廉
案内人:酒匂麗
クレオパトラのお付き
第1バリエーション:岩井優花
第2バリエーション:高橋怜衣
第3バリエーション:戸田梨沙子
第4バリエーション:成田紗弥
『クレオパトラ』の初演は2017年。熊川哲也さんが初めて挑んだ完全オリジナルのグランド・バレエ 。今回は3回目、4年ぶりの再演です。
ちなみに、初演時のクレオパトラのキャストは中村祥子さんと浅川紫織さん。今回は浅川紫織さん、日髙世菜さん、飯島望未さん。
カール・ニールセンの音楽が印象的
世界史が苦手なので、Kバレエ公式チャンネルの動画で予習。クレオパトラの容姿についてなど、意外な話が聞けて面白かった。前篇と後編があります↓
観劇前に観よう!飯島望未と古代エジプト研究家とクレオパトラの歴史を謎解き! - YouTube
クレオパトラの激動の半生を、大胆な取捨選択や演出で2幕、正味2時間で描いたバレエ『クレオパトラ』。
まず印象的なのは前奏曲のエキゾッチックでウェットなメロディ。デンマークの作曲家カール・ニールセンの「アラジン」組曲からの”oriental festival march”という曲だそう。おとぎ話劇の上演のための管弦楽組曲ということですが、まるでこのバレエのために作られたかのようです。
この曲が流れる中、紗幕の向こうの大階段をクレオパトラが降りてくる幕開けがドラマティック。そして愛する人を失ったクレオパトラが踊るクライマックスでも、同じ曲が流れます。
クラシックのテクニックに、古代エジプトの絵画に出てきそうなポーズや動きがミックスされた振付も面白かった。
日髙世菜さんのインスタグラムより。象徴的なポーズ。
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ダニエル・オストリングによる抽象化された装置も、この物語にぴったり。幾何学的な造形の最小限の装置で、ローマの宮殿からエジプトの海までが表現されていました。
衣裳は、新国立劇場バレエ団の『くるみ割り人形』の衣裳でもお馴染みの前田文子さん。エジプト勢のテーマカラーはエメラルドグリーン、対するローマは白。随所に使われているエメラルドグリーンがとてもきれいでした。
クレオパトラの仮面が剥がれる瞬間
日髙世菜さんのクレオパトラ、見事でした。
強靭なテクニックとしなやかな体のラインで表現される、妖しく、強く、美しいクレオパトラは完璧な存在。人間的な感情はあまり感じられません。
1幕最後、シーザーを暗殺しようとした弟プトレマイオスを死に追いやる場面。弟を死に至らしめた後、艶然と微笑むクレオパトラ。背筋が寒くなるような氷の微笑み、まさに「蛇の化身」という感じ。
しかし2幕の最後に愛するアントニウスの死に直面したとき、いままでかぶっていた仮面が完全に剥がれて、愛する人を失ったひとりの女性の素顔が現れます。この瞬間の劇的な変化がとにかく素晴らしかった。
熊川哲也さんのオーラ
公演前のインタビューなどでは「跳んだりとかは、期待しないで 笑」的なコメントもされていましたが、ジュリアス・シーザー役の熊川哲也さんは予想以上に踊るシーンがありました。
まず登場しただけで、完全にその場を支配してしまうオーラがすごい!重厚な存在感はまさにジュリアス・シーザー。身体も踊りも引き締まっていて精悍でした。客席の拍手もひときわ大きかった。
山本雅也さんが、バレエチャンネルのインタビューで興味深い話をされていました。
ただ、シーザーが最期を迎える場面では、ブルータス役の石橋奨也くんと、アントニウス役の堀内將平くんと、オクタヴィアヌス役の僕――つまりカンパニーの男性プリンシパル3人で、ディレクターのシーザーを囲むことになる。そこはきっと、僕らにとって特別な瞬間になるだろうと想像しています。
熊川哲也さんと一緒に舞台に立つことは、ダンサーたちにとっても特別な経験になるのでしょうね。カンパニーのメンバーに熊川さんと共演経験のないダンサーが増えてきた今、熊川さんが久しぶりに舞台に戻ってきたのには、そんな経験をダンサーたちに与えたいという理由もあるのかもしれないと思いました。
クレオパトラをめぐる男たち
『クレオパトラ』には、クレオパトラをめぐる男性キャラクターがたくさん登場します。男性ダンサーの見せ場がたっぷりあるのも熊川哲也さんの演出・振付作品ならでは。
プトレマイオス13世:吉田周平さん
10歳前後で姉のクレオパトラと共同で王位についたというプトレマイオス13世。1幕では無邪気にはしゃぐプトレマイオスが、官僚たちによって徐々に教育され、クレオパトラと対立していくさまが描かれます。
今回関野海斗さんが体調不良で降板したため、吉田周平さんが大阪、札幌も入れて全9公演でプトレマイオスを踊りました。踊るシーンも多くハードそうな役ですが、疲れを見せることもなく、溌剌としたムードの吉田周平さん。エネルギーと躍動感にあふれる踊りは「子供の王様」にぴったりでした。
ブルータス:石橋奨也さん
ジュリアス・シーザーの忠実な部下で、のちにシーザーを暗殺するブルータス。
シーザー暗殺に至るまで、徐々に思い詰めていくブルータスに、石橋奨也さんの生真面目で硬質な雰囲気がはまっていました。
アントニウス:堀内將平さん
シーザーを失ったクレオパトラを気遣い→クレオパトラと恋に落ち→オクタヴィアと政略結婚→オクタヴィアを捨ててクレパトラの元へ→オクタヴィアヌスに攻められて最後は自害。
2幕にしか出てこないにもかかわらず、これだけの展開があるアントニウスの急転直下の人生。演じるのが難しそうな役です。そんななかで、クレオパトラへの優しさ、恋するときの甘い雰囲気を感じさせた堀内將平さん。重厚で殺伐とした物語の中で、その爽やかさが光っていました。
オクタヴィアヌス:山本雅也さん
ジュリアス・シーザーの後継者で、アントニウスのライバルであるオクタヴィアヌス。
この物語の中では敵役ですが、派手に踊るシーンも多くて目立つ役どころです。特にローマ軍を率いてエジプトを攻めるところなど、ちょっと『スパルタクス』を思わせるような勇壮さ。
日髙世菜さんの公演を中心に観ていると、あまり観る機会がない山本雅也さん。このオクタヴィアヌスはとても似合っていました。後のローマ帝国初代皇帝のカリスマ性、明るく華やかなオーラを感じました。
案内人:酒匂麗さん
クレオパトラをシーザーの元に連れて行く案内人(ガイド)。その後もクレオパトラに付き添い、気遣う優しいガイドは、『白鳥の湖』の道化みたいな役回りです。
酒匂麗さんのガイドは愛嬌があって、踊りはキレキレ。人がたくさん死ぬ、ドロドロとした話の中で、唯一笑いを誘う癒しの存在でした。
個性あふれる男性キャラクターと比べると、クレオパトラ以外の女性キャラクラーはやや影が薄め。
そんな中でも小林美奈さんの可憐なオクタヴィアと、クレオパトラの4人のお付きは印象に残りました。4人のバリエーションはそれぞれに個性がでていてよかった。なかでも成田紗弥さんの艶っぽさは格別。
ちなみに4人のお付きのバリエーションは、舞台の奥からシーザーがじっと見ている前で踊られます。ダンサーさんたちにとっては、シーザーに見られてるのか、熊川さんに見られてるのかって感じで変な緊張感がありそうですよね 笑。
おわりに
この『クレオパトラ』、新国立劇場バレエ団の『ジゼル』2公演にはさまれた日程で鑑賞しました。『ジゼル』と『クレオパトラ』いい意味で対照的で面白かった。
このジュリアス・シーザー役を経て、今後の熊川哲也さんの動向が気になります。また別の役でも観られたら嬉しいです。
カール・ニールセン アラジン組曲収録
★最後までお読みいただきありがとうございました。