英国ロイヤル・オペラ・ハウスシネマシーズン2022/23『ダイヤモンド・セレブレーション』を映画館で鑑賞しました。
英国ロイヤル・バレエ団のプリンシパルが15人も出演。バランシン、マクミラン、アシュトンの名作から世界初演の新作まで、見応えのある華やかなガラ公演でした。
公演・上演概要
『ダイヤモンド・セレブレーション』英国ロイヤル・バレエ団
2022年11月16日上演・収録
芸術監督:ケヴィン・オヘア
指揮:クン・ケセルス
管弦楽:ロイヤル・オペラ・ハウス管弦楽団
【上演スケジュール】
第1幕 43分
第2幕 47分
第3幕 38分
*インタビュー、解説、休憩を含んだシネマ上演時間は3時間9分
ロイヤル・オペラ・ハウスのファン組織“フレンズ・オブ・コヴェント・ガーデン”の60周年を祝うガラ公演。
第1幕は英国ロイヤル・バレエ団の代表作を数多く手がける4人の振付家、フレデリック・アシュトン、ケネス・マクミラン、ウェイン・マクレガー、クリストファー・ウィールドンの作品。第2幕はすべて世界初演の新作。第3幕はジョージ・バランシンの名作「ジュエルズ」から「ダイヤモンド」。
英国ロイヤル・バレエ団の歴史と未来を物語る多彩な演目で構成されています。
上演前や幕間のインタビューには、芸術監督ケヴィン・オヘア、指導を行ったエドワード・ワトソン、振付家クリストファー・ウィールドン、新作を振り付けた4人の振付家、「ダイヤモンド」に出演したマリアネラ・ヌニェスとリース・クラークが登場。
第1幕
「ラ・フィーユ・マル・ガルデ」序曲とパ・ド・ドゥ
振付:フレデリック・アシュトン
音楽:フェルディナンド・へロルド
出演:アナ=ローズ・オサリヴァン、アレクサンダ―・キャンベル
とんでもなく細かいアシュトンのステップを音楽にぴったりはめて踊るアナ=ローズ・オサリヴァンのテクニックが素晴らしかったです。
アレクサンダ―・キャンベルも陽気で人のよさそうなキャラクターにぴったり。久々に輝いてるキャンベルを観た気がする(失礼!)。
花柄のエプロンとベストが対になった、お馴染みの衣裳がかわいい。
「マノン」1幕 寝室のパ・ド・ドゥ
振付:ケネス・マクミラン
音楽:ジュール・マスネ
出演:高田茜、カルヴィン・リチャードソン
とにかく妖艶だった高田茜さんのマノン。少女のように華奢な体型はそのままなのに、首、肩、腕のラインの印象が変わり、しなやかで成熟した美しさを感じました。
演技なのか地なのか、カルヴィン・リチャードソンの初々しさもデ・グリューに似つかわしかった。
「クオリア」
振付:ウェイン・マクレガー
音楽:スキャナー
出演:メリッサ・ハミルトン、ルーカス・ビヨンボー・ブレンツロド
公演当日配役が変更されたというこの演目。当初のキャストはサラ・ラム、ジョセフ・シセンズだったらしい。
この作品のメリッサ・ハミルトンは圧巻でした。演目によってはスポーティーすぎると感じることもあるのですが、この作品ではそれが魅力に転じる。無駄をそぎおとした、踊るための筋肉に覆われた肉体、ポーズからのポーズへの動きの精巧さが見事。
このメリッサ・ハミルトンに釣り合う美しい長身のダンサーはルーカス・ビヨンボー・ブレンツロド。あのドキュメンタリー映画『バレエボーイズ』の主役だった彼です。まあこんなに立派になって……(←親戚のおばちゃんか)英国ロイヤル・バレエ団の次世代を担うダンサーになりそうな予感。
「クオリア」の初演は2003年。すでに20年前の作品なんですね。初演時のキャストであるエドワード・ワトソンが指導をおこなったとのこと。(いつもながら、シネマのインタビューに登場するエドワード・ワトソンがおしゃれでかっこいい。)
「FOR FOUR」(カンパニー初演)
振付:クリストファー・ウィールドン
音楽:フランツ・シューベルト
出演:マシュー・ボール、ジェームズ・ヘイ、ワディム・ムンタギロフ、マルセリーノ・サンベ
弦楽四重奏にのせた4人の男性ダンサーによる踊り。2006年初演のキャストはアンヘル・コレーラ、イーサン・スティーフェル、ニコライ・ツィスカリーゼ、ヨハン・コボーだったとのこと!
この映像、公式ではなく画像も悪いですが、YouTubeで見ることができました。ちなみに配役は、マシューボール=イーサン・スティーフェル、ジェームズ・ヘイ=ヨハン・コボー、マルセリーノ・サンベ=アンヘル・コレーラ、ワディム・ムンタギロフ=ニコライ・ツィスカリーゼ(だったと思う)。
照明を落とした舞台に4人のダンサーのシルエットが浮かび上がり、動き始める冒頭。4人の動きの質の違いがくっきりと見えるようで、この後の展開に期待が膨らみます。4人それぞれの個性を活かしたソロや2人、3人、全員で踊るアンサンブルが途切れることなく続いていく緊迫感のある構成。
初めのソロはマシュー・ボール。華やかでキレがあり引き込まれます。今年1月の新国立劇場の「ニューイヤー・バレエ 」のゲストで踊ったときに、以前ほどのシャープさがないように感じたのは、単に調子が悪かったのか…。
続いて3人のプリンシパルにひけを取らない端正で丁寧な踊りのジェームズ・ヘイ、パワー炸裂のマルセリーノ・サンベ。
そして最後のソロを踊るワディム・ムンタギロフが素晴らしかった。エレガントで洗練された踊りに磨きがかかっていました。
なぜ6月の来日公演では、ワディム・ムンタギロフのロミオは関西のみなのか!?(←心の叫び)。
衣裳は4人それそれぞれに色の違う薄い素材の長袖のシャツとダークトーンのパンツ。きれいな衣裳ではあるですが、YouTubeで見た初演時の袖なしのシンプルなタンクトップとパンツのほうが断然よかった。腕の動きが特徴的で美しい振付なので、腕は出してほしい!
英国ロイヤル・バレエ団の公式チャンネルより。
第2幕
「SEE US!!」(世界初演)
振付:ジョセフ・トゥーンガ音楽:マイケル“マイキーJ”アサンテ
出演:ミカ・ブラッドベリ、ルーカス・ビヨンボー・ブレンツロド、アシュリー・ディーン、レティシア・ディアス、レオ・ディクソン、ベンジャミン・エラ、
オリヴィア・フィンドレイ、ジョシュア・ジュンカー、フランシスコ・セラノ、ジョセフ・シセンズ、アメリア・タウンゼンド、マリアンナ・ツェンベンホイ
ヒップホップを取り入れたメッセージ性の高い作品。若手ダンサーたちの強いエネルギーを感じました。中心にはジョセフ・シセンズ。やっぱり上手い。
バレエもヒップホップも身体表現で、ジャンルなんて関係ないともいえるけど…ふと、「バレエとは真逆とも言えるダンスをあえてバレエダンサーに踊らせる意味ってなんだろう」とも感じてしまう。それを作品から感じ取れないのは、単に私の鑑賞眼不足である可能性も高いのですが。
「ディスパッチ・デュエット」(世界初演)
振付:パム・タノウィッツ
音楽:テッド・ハーン
出演:アナ=ローズ・オサリヴァン、ウィリアム・ブレイスウェル
新作4作品の中でダントツに新しく感じたのはこの作品。
振付のパム・タノウィッツがインタビューで「バレエでは当たり前のことでも、外から見ると当たり前でないこともある」と語っていたとおり、クラシックのテクニックを使いながらも、次々に観客の予想を裏切る振付が面白かった。
劇場自体にもインスパイアされたとのことで、途中で舞台前方のアーチの柱脚部分にダンサーが腰掛けたりするシーンも。予定調和を淡々と壊してみせる、そんな作品でした。
女性は白と黒、男性は白と赤の切り替えのスポーツウェアぽいシンプルな衣裳。作品は、ふたりがこの衣裳の上に来ていたウォームアップウェアみたいなのを脱ぎながら、舞台の奥からスタスタ歩いてくるところからはじまります。「ちょっとスポーツしに来ました」みたいな感じ。
アナ=ローズ・オサリヴァンが「ラ・フィーユ・マル・ガルデ」に続いて登場。この作品でもキレのある踊りを観せてくれました。この作品を踊るアナ=ローズのほうがのびのびしていて魅力的だった。
そして意外な魅力発見と思ったのが、ウィリアム・ブレイスウェル。昨年の来日ガラ公演の繊細な悩めるジークフリート王子の印象から一転、ドライな表現がこの作品にぴったりで、正確なテクニックも素晴らしかった。
さきほどの「SEE US!!」の話とつながるのですが、私はどうやら”バレエ”を拡大したり、解釈し直したり、歪めたり…そんなコンテンポラリーが好きなのかもしれません。そんな意味で楽しめた作品でした。
「コンチェルト・プール・ドゥーふたりの天使」(世界初演)
振付:ブノワ・スワン・プフェール
音楽:サン=ブルー
出演:ナタリア・オシポワ、スティーヴン・マックレー
新作なのにこの熟成感はなんだろう…。フレッシュな「ディスパッチ・デュエット」の次だったのでなおのこと、その対比が鮮明。
ナタリア・オシポワとスティーヴン・マックレーのダンサーとしてのキャリアが刻み込まれた身体。音楽は、ある年齢層以上なら誰しも聞き覚えがある70年代に大流行したフレンチポップス「ふたりの天使」。
「ディスパッチ・デュエット」のふたりが、スポーツしに来たみたいに見えたのに対して、この作品のふたりはさっきまでお酒呑んでた、みたいなムード。
けだるい曲調に反して躍動感にあふれた激しい振付で、オシポアの身体能力全開の踊りは相変わらず見事でした。スティーヴン・マックレーの見せ場は少なくてちょっと残念。
「プリマ」(世界初演)
振付:ヴァレンティノ・ズケッティ
音楽:カミーユ・サン=サーンス
出演:フランチェスカ・ヘイワード、金子扶生、マヤラ・マグリ、ヤスミン・ナグディ
第1幕の「FOR FOUR」と対になる女性ダンサーのための作品をというオーダーだったという「プリマ」。振付は意欲的に作品を発表しているヴァレンティノ・ズケッティ。
「FOR FOUR」と同じように4人のダンサーのシルエットからスタート。体を大きく使うダイナミックな動きと繊細な表現が同居している振付です。
4人それぞれに素晴らしかったですが、特に金子扶生さんのエレガントな美しさ、ヤスミン・ナグディの自信に溢れた華やかさや確かなテクニックが印象に残りました。
この作品、衣裳がとても素敵だった。デザイナーはロクサンダ・イリンチック。キャサリン妃御用達ブランドとしても知られる「ROKUSANDA(ロクサンダ)」のデザイナーらしい。
ブランドサイト↓
Roksanda Official Online Boutique | – ROKSANDA
動きに合わせてスカートがポワンポワンと弾むように揺れるのが視覚的に面白かった。一体どういう素材なんでしょうか?
4人それぞれ異なるデザインなのですが、金子扶生さんはひとりだけ長袖、ハイネック、ロングスカートの衣裳。この衣裳が金子さんに抜群に似合っていて肩から腕にかけての美しさを引き立てていました。
一方でフランチェスカ・ヘイワードは衣裳でちょっと損している気もした。ロイヤルブルーは、フランチェスカ・ヘイワードに似合っていないのでは…。モードな衣裳も似合うタイプの人だと思うのに、勿体無い。
英国ロイヤル・バレエ団の公式チャンネルより。
余談ですが、この「FOR FOUR」「プリマ」の並びは、昨年の『NHKバレエの饗宴』「Variations for four」と「パ・ド・カトル」を思い出します。男性バージョンのほうはタイトルまで似てるけど、別の作品。
第3幕
「ジュエルズ」より「ダイヤモンド」
振付:ジョージ・バランシン
音楽:ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー
出演:マリアネラ・ヌニェス、リース・クラーク
無色透明で不純物が含まれていないほど価値が上がるダイヤモンドのように、淡々とバレエの美しさを表現するクールなダンサーが似合うと思っているバラシンの「ダイヤモンド」。
感情表現が豊かであたたかみのある印象のマリアネラ・ヌニェスに「ダイヤモンド」のイメージはなかったけれど、予想外によかったです。後光が指すような気品ある佇まいが素晴らしかった。
パートナーは今シーズンからプリンシパルに昇格したリース・クラーク。長身というだけでなく、顔が小さく、脚が長い。特に膝下が長くてラインが美しい。白い衣裳がとても似合ってた。マリアネラ・ヌニェスのパートナーには、これくらい大柄なダンサーのほうがバランスいいですね。
ガラ公演では、静謐なアダージオだけを観る機会が多い「ダイヤモンド」。コール・ド・バレエが加わると煌びやかで、印象が変わります。
ただコール・ド・バレエの女性の衣裳は、いまひとつ英国ロイヤル・バレエ団にしっくりきていない気もした。ベージュのボディに白のチュチュの組み合わせはとても素敵ですが、チュチュは釣鐘型で膝上ぐらいの丈。ロイヤルはけっこうしっかりボディのダンサーが多いので、どうもこの形ってあんまりスタイルよく見えない気が…(失礼!)
おわりに
「FOR FOUR」、「プリマ」、「ダイヤモンド」は6月の英国ロイヤル・バレエ団の来日公演「ロイヤル・セレブレーション」でも上演されます。今から楽しみです!
概要/英国ロイヤル・バレエ団/2023/NBS公演一覧/NBS日本舞台芸術振興会
シネマでも宣伝されてた「ザ・コレクション」。
★最後までお読みいただきありがとうございました。