『ヌレエフ:伝説と遺産』をアップリンク吉祥寺で鑑賞しました。
当初上映期間中にどうしても時間が取れず、配信で観ようと思っていたこの映画。好評だったようで上映期間延長になり、最終日に間に合いました。
SNSなどで話題になっていたバレエ教室生徒割1,500円(一般は2,200円)で鑑賞。お得すぎる!ロイヤル・オペラ・ハウス・シネマでもやってほしいですね、この割引。
2022年9月、ロンドンのドルリー・レーン王立劇場で開催されたヌレエフ・ガラの映像。見応えがありました。
公演・上演概要
『ヌレエフ:伝説と遺産』
収録:2022年9月 ドルリー・レーン王立劇場
芸術監督:ニーアマイア・キッシュ
指揮:デヴィッド・ブリスキン
管弦楽:ロイヤル・バレエ・シンフォニア
照明:サイモン・ベニソン
衣裳:ナタリア・スチュワート
上演時間(映像):113分
上演された9作品は、ヌレエフ振付作品に限らず、ヌレエフに縁の深い作品が選ばれています。芸術監督は元英国ロイヤル・バレエ団のプリンシパル、ニーアマイア・キッシュ。
ガラの司会をつとめた元英国ロイヤル・バレエ団芸術監督のモニカ・メイソンと、ヌレエフの亡命を描いた映画『ホワイト・クロウ 伝説のダンサー』の監督であるレイフ・ファインズが映画の冒頭にも登場。
中盤では出演ダンサーたちへのインタビュー映像も流されました。印象的だったのは、ワディム・ムンタギロフのインタビュー。「ダンサーに100%以上の力を要求するヌレエフの振付は本当に大変!」みたいな、素直なコメントがムンタギロフらしくて微笑ましかったのですが、「(経済的な余裕がなく)ロイヤル・バレエスクールで学べたのはヌレエフ財団のおかげ」との言葉も。
わたしたちが今のムンタギロフを観ることができるのも、ヌレエフのおかげ。ヌレエフの遺した有形、無形の遺産は、いまなおバレエ界を支えているんですね。
舞台上のオーケストラの前で踊るダンサーたち
ドルリー・レーン王立劇場は、ヌレエフがはじめてロンドンで踊った劇場とのこと。現在はミュージカルの上演がメインのようです。
劇場の構造的な理由なのか、演出なのか、今回のガラは舞台奥でオーケストラが演奏して、その前でダンサーが踊る形式。
演目によってはちょっと舞台が狭そうだったけど、ライブ感があってこれはこれでよかった。(指揮者はダンサーに背を向けてる状態だけど、タイミングはどう合わせてるんでしょうか?)
ナタリア・スチュワートによる衣裳は、オーソドックスなデザインに、手の込んだ装飾が美しく、上品。『ローレンシア』では、ヌレエフが踊った当時の衣裳を調査して再現したそう。
プログラム
『眠れる森の美女』
The Sleeping Beauty,Act 2 Entr’acte Solo
音楽:ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー
振付:ルドルフ・ヌレエフ
出演:ギヨーム・コテ
男性ダンサーの地位を高めたといわれるヌレエフ。ガラの幕開けは、その功績を象徴するような演目、ヌレエフがオリジナルで振り付けた『眠れる森の美女』の2幕の王子のソロ。
初めて買ったバレエDVDがデュポン&ルグリのヌレエフ版『眠れる森の美女』だったのですが、観れば観るほど、このソロは難しそう。
今回はじめて観たギヨーム・コテは堂々とした佇まいのダンサーでした。踊りはやや重く感じましたが…どうしてもルグリと比べてしまうからかもしれません。
『ガイーヌ』
Gayane, Pas de Deux
音楽:アラム・イリイチ・ハチャトゥリアン
振付:ルドルフ・ヌレエフ(原振付:ニーナ・アレクサンドロヴナ・アニーシモヴァ)
出演:マイア・マハテリ、オレグ・イヴェンコ
『ガイーヌ』より、ヌレエフ改訂振付のパ・ド・ドゥ。キャラクター・ダンスの要素もある楽しい演目でした。
マイア・マハテリもオレグ・イヴェンコも、シャープなテクニックと華やかな存在感が素晴らしかった。
オレグ・イヴェンコは映画『ホワイト・クロウ』で ヌレエフを演じていたダンサー。映画とは踊りの印象が全然違っていて驚いた。思わず『ホワイト・クロウ』をもう一度観てみたほど。
映画でのオレグ・イヴェンコの踊りは硬質で野生的な感じ。「亡命前のヌレエフは荒削りの部分があるが、並外れた才能と情熱の持ち主」という設定に合わせた演技だったのか、はたまたこの5年で洗練されたのか。
オレグ・イヴェンコ主演の『ホワイト・クロウ』。ヌレエフの生い立ちと、亡命までの緊迫したドラマが見どころ。幼少期のヌレエフが懸命に民族舞踊を練習するシーンも出てきます。
『ラ・バヤデール』
La Bayadere, Act 3 Pas de Deux
音楽:ルートヴィヒ・ミンクス
振付:マリウス・プティパ
出演:ヤーナ・サレンコ、ザンダー・パリッシュ
久しぶりに観るヤーナ・サレンコ。研ぎ澄まされたラインやテクニックは衰えないですね。ザンダー・パリッシュも美しかったですが、この演目は個人的にはやや印象が薄かった。なぜだろう。
『ゼンツァーノの花祭り』
The Flower Festival in Genzano, Pas de Deux
音楽:エドヴァルド・ヘルステッド
振付:オーギュスト・ブルノンヴィル
出演:イダ・プレトリウス、フランチェスコ・ガブリエレ・フローラ
フランチェスコ・ガブリエレ・フローラの弾むようなブルノンヴィル・ステップが素晴らしかった!柔らかな着地と正確な足さばきが見事でした。
ハンブルク・バレエ団の来日公演で見たばかりのイダ・プレトリウスも、キュートでテクニックにキレがありました。
『ローレンシア』
Laurencia, Pas de Six
音楽:アレクサンドル・クライン
振付:ルドルフ・ヌレエフ(原振付:ワフタング・チャブキアーニ)
出演:
ナタリア・オシポワ、セザール・コラレス
崔由姫、マリアンナ・ツェンベンホイ、ベンジャミン・エラ、五十嵐大地
1964年にヌレエフが英国ロイヤル・バレエ団とTVで共演した作品。
この演目のナタリア・オシポアはすごかった!
芸術監督のニーアマイア・キッシュが自ら、ガラの見どころとして挙げていただけのことはあります。
ダイナミックなジャンプや回転、上半身の表情の豊かさ、柔らかで自由自在のポアントワーク。背中を大きく反らせたグラン・パディシャの高さや勢いに驚愕しました。
相手役は当初マルセリーノ・サンベ の予定だったらしいですが、セザール・コラレスに変更に。オシポアとコラレスのペアはとても相性がいいと思いました。(ちょっと似た気質を感じる…笑)
セザール・コラレスも素晴らしかった。テクニックはもちろんのこと、粋な感じがあって、魅力的。
ベンジャミン・エラと五十嵐大地くんのクリアなテクニック、オシポアとは好対照のユフィさんの柔らかな踊りもよかった。
セザール・コラレスのインスタグラムより。フレエフが踊った当時のものを再現したという、ピンクと黒の衣裳がかわいい。
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『眠れる森の美女』
Sleeping Beauty, Act 3 Grand Pas de Deux
音楽:ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー
振付:ルドルフ・ヌレエフ(原振付:マリウス・プティパ)
出演:ナターシャ・マイア、ワディム・ムンタギロフ
ワディム・ムンタギロフのノーブルな王子に見惚れました。キャリアを積んでも筋肉がつきすぎることもなく、洗練されたラインが本当に美しい。以前は王子を踊っていても、「人のいいワディム」がときどき見えてた気がするけど、このデジレ王子はまさにノーブル。
ナターシャ・マイアも可憐で華やかでしたが、3幕というよりは1幕のオーロラ姫っぽかったかも。
ワディム・ムンタギロフのインスタグラムより。理想の王子がここに!
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『ジゼル』
Giselle, Act 2 Pas de Deux
音楽:アドルフ・アダン
振付:マリウス・プティパ(原振付:ジャン・コラリ、ジュール・ペロー)
出演:フランチェスカ・ヘイワード、ウィリアム・ブレイスウェル
フランチェスカ・ヘイワードの、リフトされてふわりと宙に浮かぶ姿が本当に軽い。ウィリアム・ブレイスウェルの端正な佇まいにも文句はない…けれど、この演目も個人的には少し印象が薄かった。ワディム・ムンタギロフに、心をもっていかれていたせいかもしれない…。
『ドン・ジュアン』
Don Juan 〈Excerpt〉
音楽:クリストフ・ヴィリバルト・グルック、トマス・ルイス・ビクトリア
振付:ジョン・ノイマイヤー
出演:アリーナ・コジョカル、アレクサンドル・トルーシュ
今年1月の新国立劇場バレエ団『ニューイヤー・バレエ』に、アリーナ・コジョカルとアレクサンドル・トルーシュがゲスト出演したときに踊っていた演目。
でもなぜここでノイマイヤー?と思ったら、ヌレエフが踊った作品とのこと。『ニューイヤー・バレエ』の公演パンフレットをあらためて見たら、ちゃんと書いてありました。
本作は1972年にノイマイヤーが当時芸術監督だったフランクフルト・バレエ団に振り付けた作品です。74年にR・ヌレエフを主役にカナダ国立バレエ団で再制作された後、ハンブルク・バレエ団のレパートリーにもなりました。
なるほど。
映像ではよりのカットも多くて、髪をかきあげ、ナルシスティックな表情を浮かべるドン・ジュアンをじっくり観ることができました。ちょうどハンブルク・バレエ団の来日公演『ジョン・ノイマイヤーの世界』を観たばかり。『シルヴィア』のアミンタ、『椿姫』のアルマン、ドン・ジュアンと、アレクサンドル・トルーシュの魅力を堪能。どんな役でも独特の甘さがあって心惹かれます。
白衣の貴婦人を演じるアリーナ・コジョカルの静謐な佇まいも素晴らしかったです。
『海賊』
Le Corsaire, Pas de Deux
音楽:アドルフ・アダン
振付:マリウス・プティパ
出演:ヤスミン・ナグディ、セザール・コラレス
セザール・コラレス再び参上。
昨年のロイヤルの来日ガラでも、この二人で『海賊』を踊ってましたね。
セザール・コラレスの舞台からはみ出しそうな勢いと回転やジャンプのキレ、ヤスミンの絶対的な安定感と輝き。ガラの最後に相応しい踊りでした。
セザール・コラレスは世界バレエ・フェスティバルに鳴り物入りで登場した当時は、あまりピンとこなかったけど、最近は観るのが楽しみになってます。
おわりに
『ヌレエフ:伝説と遺産』はDICE+の配信でも観られます。おすすめです。
非会員の場合、1400円で72時間視聴可能。
フレエフ没後30年にあたる今年、7月にパリ・オペラ座による記念ガラも開催されますね。
概要/パリ・オペラ座バレエ団 ガラ/2023/NBS公演一覧/NBS日本舞台芸術振興会
10年前、没後20年のヌレエフ特集の『SWAN MAGAZINE』がまだ手に入る!
★最後までお読みいただき、ありがとうございました。