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新国立劇場バレエ団 小野絢子×奥村康祐、米沢 唯×渡邊峻郁『ジゼル』【バレエ鑑賞メモ】

新国立劇場バレエ団『ジゼル』を鑑賞しました。10月27日(木)と29日(土)のソワレの2公演。主演は小野絢子さん×奥村康祐さんと、米沢 唯さん×渡邊峻郁さん。

新制作の吉田都版『ジゼル』。27日だけ観る予定でしたが、もう一度観たくなり、29日の公演を追加で購入しました。

 

公演概要

『ジゼル』全2幕 新国立劇場バレエ団
新国立劇場 オペラパレス

【振付】ジャン・コラリ / ジュール・ペロー/マリウス・プティパ
【演出】吉田 都
【改訂振付】アラスター・マリオット

【演出・改訂振付補佐】ジョナサン・ハウエルズ
【音楽】アドルフ・アダン
【美術・衣裳】ディック・バード
【照明】リック・フィッシャー

【指揮】アレクセイ・バクラン
【管弦楽】東京フィルハーモニー交響楽団

【キャスト】

2022年10月27日(木)14:00 / 10月29日(土)18:00

ジゼル:小野絢子 / 米沢 唯

アルブレヒト:奥村康祐 / 渡邊峻郁

ヒラリオン:福田圭吾 / 中野駿野

ミルタ:寺田亜沙子 / 根岸祐衣

ウィルフリード:清水裕三郎/ 小柴富久修

ベルタ(ジゼルの母親):中田実里/ 楠元郁子

クールランド公爵:夏山周久

バチルド:益田裕子/ 渡辺与布

ペザント パ・ド・ドゥ:奥田花純、中島瑞生/飯野萌子、山田悠貴

モナイ(ドゥ・ウィリ):廣川みくり/ 広瀬碧

ズルマ(ドゥ・ウィリ):飯野萌子/ 益田裕子

【上演スケジュール】

第1幕 55分

休憩30分

第2幕 50分

 

2022/2023シーズンの開幕を飾るのは、芸術監督吉田都さんが自ら演出を手掛ける新制作の『ジゼル』。新国立劇場の開場25周年記念公演でもあります。

改定振付は、英国ロイヤルバレエで長年活躍し、吉田都さんとも共演していたイギリス人振付家アラスター・マリオット。美術は新国立劇場バレエ団の『火の鳥』と『アラジン』の装置デザインを手掛けているディック・バード。

舞台上のすべての人にキャラクターがある

吉田都版『ジゼル』は奇をてらわない、とてもオーソドックスな演出でした。新しい演出の部分も、違和感を感じることなく落ち着いて観ていられる感じです。

 

1幕の有名な花びら占いのシーン。このシーンでジゼルが占いに使う花は、ヒラリオンがジゼルのために、家の前に置いていった素朴な花束から抜き取ったもの。もちろんヒラリオンが持ってきたものとは、ジゼルはつゆ知らず。なんてかわいそうなヒラリオン!

 

村の収穫祭に、ワインの神バッカスに扮した小さな男の子が出てくるのも目新しい。この少年がジゼルに、収穫祭の女王の冠を授けます。

ジゼルの狂乱シーンの最後の方で、ジゼルが村人たちに救いを求めるように手を伸ばし、村人たちが母親ベルタの方を指し示すところがあります。吉田版ではジゼルが手を伸ばすのは、バッカスに扮した少年。少年の母が怯えて少年を隠すようにして、ジゼルにはベルタのいるほうを示す、という流れになっていました。

この少年の母親には名前がなく配役表にも出ていないのですが、この役を演じた今村美由紀さんのインスタグラムによると、この母親はベルタの親友だという設定があったということ。きっとジゼルのこともよく知っていて、「ジゼルが心配、でも自分の子供は守らないと」という気持ちだったでしょう。こんな一瞬のシーンにもいろんな感情が詰まっている…。

舞台上のすべての人が、それぞれにその人の人生を生きている。それが舞台に厚みを持たせているんだなと感じました。

 

ペザントは男女2人のパ・ド・ドゥ。バチルドに向けて披露される踊りという位置づけになっています。このパ・ド・ドゥの振付はけっこう改訂されているのかな?華やかで躍動感があり、見応えがありました。

 

ウィリたちのフォーメーションが新しい

新しさを感じたのは2幕のウィリたちの踊り。特にフォーメーションは複雑で変化もスピーディー。センターに立つミルタを中心に、放射線状にならんだり、円形に囲むような求心性のあるレイアウトが多い印象でした。

上手下手に2列に分かれて並んだウィリたちが上手下手入れ替わるところでは、移動しながら列が斜めになり、センターで一瞬”X字型”になるという超絶難しそうなフォーメーションも!

上の階から観ていましたが、さすが新国立劇場バレエ団のコール・ド・バレエ。どのフォーメーションも一糸乱れることなく、美しかったです。

2幕の「十字架の丘」に心奪われる

この作品のディック・バードの美術は素晴らしかった!

新国立劇場バレエ団の「World Ballet Day 2022 LIVE」の動画のなかで、改訂振付のアラスター・マリオットが「油絵に生命の息吹を吹き込んだよう」と言っていましたが、言い得て妙です。

 

2022年11月末まで視聴可能。41:00から50:00あたりが『ジゼル』関連の映像です。↓

新国立劇場バレエ団World Ballet Day 2022 LIVE - YouTube

 

こちらはディック・バード自らが案内するバックステージツアー!↓

www.youtube.com

今回の美術の設定は、15世紀半ばのライン川流域、ワインの産地とのこと。

1幕の装置は下手にジゼルの家、上手にアルブレヒトの小屋というおなじみの配置ではありますが、そこでリアルな生活が営まれていることがうかがわれる造りになっています。版によっては本当に住めるのかと思うような簡単な小屋だったりするジゼルの家ですが、ここではジゼルの家はしっかりした2階建、となりにも家らしきものがあったり、ワインの圧搾機が置いてあったりします。

 

そして、リトアニアの「十字架の丘」に着想を得、キリスト教と土着の文化の狭間にある世界観を表現したという2幕の舞台美術が出色!

両端の木々は鬱蒼として不気味に生い茂り、目をこらすと木の幹の部分にも無数の小さな十字架とろうそくが見える。舞台奥には苔むしたような丘(崖?)。丘の向こうには月が出ている。

『ラ・シルフィード』にも使いまわしできそうな神秘的なクリーンな森ではなく、荒れ果てた森なのです。荒涼とした風景と無数の十字架が、ウィリたちひとりひとりの死にもストーリーがあることを感じさせます。

そして夜が明け始める2幕の最後。月が消えて空が明るくなりはじめると、舞台奥の丘に立っている無数の十字架のシルエットがくっきりと浮かび上がります。朝焼けの空に浮かぶ雲、舞台の手前にはアルブレヒトと、彼に別れを告げるジゼルの姿。

このシーンが本当に美しく、哀しく…。一枚の絵のように、記憶に刻まれました。

バチルドのド派手な衣裳に注目

1幕の村人の衣裳は落ち着いたアースカラーのトーン。よく見ると、それぞれにデザインが異なり、装飾も凝っていて素敵。雰囲気は英国ロイヤル・バレエ団のピーター・ライト版に近い感じ。

ピーター・ライト版ではジゼルの衣裳も村人と同じブラウン系でしたが、吉田都版ではおなじみのブルーと白。ブルーといっても、トーンがとても落ち着いていて、村人の衣裳ともよくなじんでいました。

村に登場する王室の一行の衣裳も、豪奢ではあるものの、深いブラウンなど落ち着いた色合い。そんななかでアルブレヒトの婚約者バチルドの衣裳だけがとにかく派手!光沢のあるピンク、赤、黒、白に黒の斑の毛皮のトリミング…。

この衣裳については吉田都さんが制作発表会見で、「デザイン画の段階で”いくらなんでも派手すぎるのでは”と不安に感じていたが、出来上がってきたものを見たら、キャラクター設定にぴったりで、なるほどと思った」と話されていました。

たしかにこの衣裳を着て現れたバチルドを観た瞬間に、どんなキャラクターかすぐにわかってしまう。吉田版『ジゼル』のバチルドは狩りの場にもこんな派手な服を着てきてしまう、華美で贅沢好きの女性。アルブレヒトがジゼルに惹かれてしまった一因をうかがわせるような設定です。

パンフレットでは、バチルドは大富豪の娘、アルブレヒトは公国の王子、クールランド公爵は2人の婚約をおぜん立てしたアルブレヒトの伯父、と説明されていました。

あれ…?と、気になって今年5月に観たスターダンサーズ・バレエ団のピーターライト版『ジゼル』のパンフレットを見返すと、バチルドはクールランド公爵の娘、アルブレヒトは伯爵(位は公爵の方が上)という説明でした。

なるほど、このへんの設定も異なるのですね。

 

27日のバチルド、益田裕子さんのインスタグラムより。

 
 
 
 
 
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2幕のウィリたちの衣裳は純白でシンプルでしたが、ボディーの部分の切り替えや袖の形、シルエットが美しかった。荒涼としたダークな森のなかでとても映えていました。

小野絢子さんの哀感と米沢唯さんの慈愛

小野絢子さんは手脚の伸びやしなやかさが、さらに進化した気がします。小柄な人なのに、創り出す空間が大きい。1幕は持ち味の可憐さ全開なのですが、ジゼル狂乱の場面は思いのほか凄みがありました。2幕の浮遊感、透明感、哀感も素晴らしかった。

一方米沢唯さんは、1幕は純朴で明るい村娘。揺るぎのないテクニックはいつ観ても感嘆させられます。2幕はアルブレヒトの全てを許し、包み込むような愛を感じました。慈愛に満ちた姿は神々しいほどだった。

 

そして奥村康祐さんと渡邊峻郁さんのアルブレヒトは、それぞれのジゼルにぴったりでした。

個人的に奥村康祐さんと言えば、『くるみ割り人形』のねずみの王様や、『ドン・キホーテ』のガマーシュと、濃厚なキャラクターを思い浮かべます。そんな奥村さんのアルブレヒトはとてもノーブルでスマートでした(それだけに余計罪深い気もする…)。踊りも役柄にふさわしく端正。しなやかでラインが美しかったです。

対して渡邊峻郁さんは、あっけらかんとした明るいプレイボーイのアルブレヒトという印象。2幕、自分の犯した罪の重さに茫然とする渡邊アルブレヒトは、無限の愛を感じさせる米沢ジゼルと相性ぴったりでした。

 

ミルタはピーター・ライト版ほど強くて怖い感じではなく、メイクも普通。端正で厳かな寺田亜沙子 さんのミルタは美しかった。

29日のミルタは、キャビンアテンダントからの転身が話題の根岸祐衣さん。久しぶりに観た根岸さんは、踊りのスケールが格段に大きくなっていて驚きました。約1年前に『白鳥の湖』のポーランド王女の踊りを観たときは華があるダンサーだと思いましたが、ミルタが似合うタイプだとは思わなかった。1年でここまで変化するとは…。今後が楽しみです。

おわりに

ダンサーたちの熱量がどんどん上がってきている気がする新国立劇場バレエ団。

今シーズンも楽しみです!

ホワイエでは2022/23のシーズンプログラムが販売されていました。

団員紹介のところに載っている、ダンサーたちのコメントがおもしろかった。

オンラインでも購入可能↓

theatreshop.jp

 

「ダンスマガジン」2022年11月号は吉田都版『ジゼル』特集号。表紙は木村優里さん。木村さんのジゼルも観たかったな。

ジゼルとは直接関係はないのですが、この号に載っている米沢唯さんの連載「バレリーナの頭の中」、読んでいて鳥肌が立ちました。こどものためのバレエ劇場『ペンギンカフェ』公演中に緊急事態が発生?!ぜひ読んでみてください。

 

5月に観たピーター・ライト版『ジゼル』の感想はこちら↓

www.balletaddict.com

 

こちらは英国ロイヤル・バレエのピーター・ライト版DVD。主演はマリアネラ・ヌニェスとワディム・ムンタギロフ!

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★最後までお読みいただきありがとうございました。