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スターダンサーズ・バレエ団『DANCE SPEAKS』【鑑賞メモ】

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スターダンサーズ・バレエ団のトリプルビル『DANCE SPEAKS』、3月26日(土)の公演を鑑賞しました。「セレナーデ」「マラサングレ」「緑のテーブル」の3作品。

前々記事の英国ロイヤル・バレエ『ロミオとジュリエット』より前に観ていたのですが、感想を書きあぐねていました。簡単な鑑賞メモです。

公演概要

『DANCE SPEAKS』スターダンサーズ・バレエ団

3月26日(土)14:00〜

東京芸術劇場プレイハウス

総監督:小山久美

バレエミストレス:小山恵美

照明:足立恒

 

【上演スケジュール】

「セレナーデ」14:00〜14:35

休憩20分

「マラサングレ」14:55〜15:10

休憩20分

「緑のテーブル」15:30〜16:10

 

開演前には総監督小山久美さんのプレトークで簡単な作品解説があり、ロビーには「緑のテーブル」の場面ごとの写真が展示してありました。

コロナの影響で中止になった2020年3月の同名の公演『DANCE SPEAKS』(演目は「緑のテーブル」とバランシンの「ウェスタン・シンフォニー」)のパンフレットが、会場で400円という値段で販売されていたのですが、「緑のテーブル」の振付をおこなったクルト・ヨースのバイオグラフィーや、クルト・ヨースの娘で作品の指導を行っているアンナ・マーカードのインタビューなどが掲載され、読み応えがありました。

50ページ近い2020年公演のパンフレット。装丁も凝っていて素敵。↓

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『セレナーデ』Serenade

振付:ジョージ・バランシン

音楽:ピョートル・イリイチ.・チャイコフスキー “弦楽セレナーデ”

振付指導:ベン・ヒューズ

*特別録音による音源を使用

【出演】

渡辺恭子、塩谷綾菜、喜入依里
西澤優希、林田翔平
秋山和沙、石山沙央理、冨岡玲美、前田望友紀

井後麻友美、岩崎醇花、榎本文、海老原詩織、岡田夏希、角屋みづき
金子紗也、西原友衣菜 、野口熙子、橋本まゆり、東真帆、森田理紗、山内優奈

小澤倖造、佐野朋太郎、宮司知英、渡辺大地

 

バランシンの代表作のひとつ『セレナーデ』。スターダンサーズ・バレエ団での初演は1983年。初のバランシン作品として上演されています。

月光のような照明に照らし出されるダンサーたちの端正な佇まい。群舞の冴え冴えとした美しさに魅せられました。

この均整が取れた群舞があってこそ、引き立つソリストの個性。精巧な踊り、憂いを帯びた雰囲気の渡辺恭子さん、伸びやかな塩谷綾菜さん、それぞれに役のニュアンスにあっていてよかったです。

この作品を観るたびに、いろんなストーリーを想像してしまう。散りばめられたドラマティックな要素、倒れる女性、解ける髮、目隠しされる男性、女性が高く掲げられるエンディング…。バランシン自身がストーリーはないと語っている『セレナーデ』。正解を求めても意味はないと、わかってはいるのですが。

『マラサングレ』Malasangre

振付・照明・衣裳デザイン:カィェターノ・ソト
音楽:ラ・ルーペ

演出・振付指導:新井美紀子

※特別録音による音源を使用。

【出演】

小澤倖造、加地暢文、関口啓、飛永嘉尉、冨岡玲美、フルフォード佳林、切通理夢* 名村空* 水城卓哉* 宮本萌* (*貞松・浜田バレエ団)

*会場で掲示されていたキャストの変更。もともとのキャストは9人でしたが、なぜか10人の名前がありました。

 

日本初演、貞松・浜田バレエ団との共同制作作品。バレエ団を超えての共同制作は珍しいですね。貞松・浜田バレエ団の2022年3月19日(土)神戸文化ホールでの公演でも上演されています。

スペイン出身の振付家、カィェターノ・ソトによる、ラ・ルーペという名前で知られるキューバの歌手グアダルーペ・ビクトリア・ヨリ・レイモンドへのオマージュ作品。

公演パンフレットによると、Malasangre(マラサングレ)とは直訳すると「悪い血」。エキセントリックで個性的、晩年は不遇だったラ・ルーペの人生と、偏見や先入観というネガティブな感情がもたらす影響についてがテーマとのこと。

まず、ダンサーから放出されるエネルギーに圧倒されました。ラテンのリズムにのった激しい動きは、高い身体能力と音楽性が必要とされそう。ダンサーたちの踊りは素晴らしく、全員が横並びになって踊るパートは非常に迫力がありました。

音楽は明るく響きますが、作品自体に陽気さはあまりないように感じました。激しい動きは、なにかの拘束を振り切ろうとする動きのようにも見えてきます。(パンフレットをあらかじめ見ていたために、受けた印象かもしれませんが…)

舞台の床には黒い紙切れ?破片?のようなものが撒かれていて、それがダンサーの動きで巻き上がるさまが印象的。黒い花びらのようにも、黒い血のようにも、燃え殼のようにも見えます。

カィェターノ・ソト自身がデザインした衣裳もよかった。男性ダンサーは上半身裸で、ベージュ(シャンパンカラー?)のスカート、黒いハイソックス。女性ダンサーはベージュのショーツと黒のブラにシースルーのトップスを重ね、黒いニーハイソックス。照明も含めた全体の色のトーンが美しく、魅力的な衣裳でした。

 

こちらはオランダのダンスカンパニ「Introdans」の『マラサングレ』の紹介動画↓

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昨年『バレエ・アステラス2021』の公演で、新国立劇場バレエ研修生によるカィェターノ・ソト作品日本初演の『Conrazoncorazon』(抜粋)が観られるはずでした。ところが、私が観に行った日は研修生に発熱者がでて、この演目は中止になってしまったんですよね。(関係者の陰性が確認されて、翌日は上演されました。)

同じく「Introdans」の『Conrazoncorazon』の紹介映像↓

この衣裳も好き。カィェターノ・ソトは黒いハイソックスが好きなのか…??

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『緑のテーブル』The Green Table

台本・振付:クルト・ヨース
作曲:フリッツ.A.コーヘン
美術:ハイン・ヘックロス
マスク・照明:ハーマン・マーカード
舞台指導:ジャネット・ヴォンデルサール
舞台指導助手:クラウディオ・シェリーノ
照明再構成:ベリー・クラーセン
ピアノ:小池ちとせ、山内佑太

*音楽はオーケストラピットに置かれた2台のグランドピアノによる演奏。

【出演】

死:池田武志
旗手:林田翔平
若い兵士:佐野朋太郎
若い娘:早乙女愛毬
女:フルフォード佳林
老兵士:大野大輔
老母:喜入依里
戦争利得者:仲田直樹
兵士たち:加地暢文、関口啓、渡辺大地
女たち:鈴木就子、谷川実奈美、橋本まゆり、南亜紗子、森田理紗
黒服の紳士たち:大野大輔、加地暢文、喜入依里、佐野朋太郎、関口啓、仲田直樹、林田翔平、フルフォード佳林、南亜紗子、渡辺大地

 

クルト・ヨースの最高傑作といわれる『緑のテーブル』。中世ヨーロッパで流布した「死の舞踏」と第一次世界大戦の影響を受けて制作された、1932年初演の作品です。

日本ではスターダンサーズ・バレエ団のみがレパートリーにしています。

 

こちらは2019年公演の予告。この時も公演タイトルは『DANCE SPEAKS』↓

www.youtube.com

この作品は8つのパートに分かれ、戦争の様々な側面が描かれます。1と8は緑のテーブルが登場する会議のパートです。

1.黒服の紳士たち

2.死の踊り〜別れ〜

3.戦闘

4.避難民

5.パルチザン

6.売春宿

7.余波

8.黒服の紳士たち

 

幕開け、軽快な音楽が流れるなか、不気味なマスクをかぶった10人の黒服の男が緑のテーブルを囲みます。熱心に議論しているように見えて、何度も同じことを繰り返しているだけ。

突然の銃声、そして「死」が登場。

若い兵士、老兵士、若い女、老母…さまざまな人々が戦争に翻弄されるなか、「死」は常にそこにいる。そして人々は次々に「死」に連れ去られる。

再び銃声が響き、場面は明るい会議場へ。何もなかったかように繰り返される議論…

 

初演時はクルト・ヨース自身が演じたという「死」。

今回「死」を演じたのは池田武志さん。暗闇に紛れるように佇んでいるときも、激しく踊っているときも、重みのある存在感が素晴らしかった。

 

濃密な30分の舞台。客席の空気も張り詰めていた気がする。「まさかこの状況で、この作品観ることになるとは」と多くの観客が思っていたのではないでしょうか。

80年前の作品と、今の状況は何も変わっていない…。背筋が寒くなりました。

おわりに

公演タイトルの通り、それぞれに雄弁な3作品でした。長く記憶に残る公演になりそうです。

 

スターダンサーズ・バレエ団の次の公演はピーター・ライト版『ジゼル』。

ピーター・ライト版「ジゼル」全2幕 | STAR DANCERS BALLET

★最後までお読みいただきありがとうございました。

 

【期間限定】山本康介さんの「バレエ公開レッスン」YouTube無料配信

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山本康介さんによる「バレエ公開レッスン」が、You Tubeで期間限定・無料配信されています。

元バーミンガム・ロイヤル・バレエのファーストソリスト、ローザンヌ国際バレエコンクールの解説でもおなじみの山本康介さんによるフルレッスン。

主催は日本バレエ団連盟。実技は東京シティ・バレエ団の団員の皆さん、ピアニストは稲葉智子さん。東京シティ・バレエ団の芸術監督の安達悦子さんが司会をされ、レッスン後のトークにも出演されています。

公開期間:2022年4月15日(金)10:00~24日(日)24:00 10日間限定

 

www.youtube.com

1:04~講師紹介など
4:28~バーレッスン
52:34~センターレッスン
1:37:44~レッスン終了後のトーク

このレッスンは日本バレエ団連盟の文化庁委託事業「令和3年度次代の文化を創造する新進芸術家育成事業」の一環として、2022年3月7日に東京文化会館大ホールで実施されたもの。昨年は加治屋百合子さんが同様の公開レッスンをされていました。

 

1時間半のフルレッスンは見ごたえがあります。レッスンは上級者向けの内容で、私のレベルだと自分でやってみるのはなかなか難しそう。けれど山本康介さんが注意されていることは、基本的な体の使い方ついての部分も多くて参考になります。

また山本康介さんのお手本が美しい。軽くやってみせているだけなのですが、揺るぎない体幹や、しなやかで音楽的なポールドブラが素晴らしいです。

10日間の期間限定公開ですので、見られるうちにぜひチェックしてみてください。

 

山本康介さんの著書「英国バレエの世界」についての記事はこちら↓

www.balletaddict.com

 

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★最後までお読みいただきありがとうございました。

英国ロイヤル・バレエ『ロミオとジュリエット』【バレエシネマ鑑賞メモ 】

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英国ロイヤル・オペラ・ハウスシネマ シーズン2021/2022、英国ロイヤル・バレエ『ロミオとジュリエット』を鑑賞しました。大好きなマクミラン版『ロミオとジュリエット』をスクリーンで堪能しました。

上演概要

『ロミオとジュリエット』 英国ロイヤル・バレエ

収録日 2022年2月3日

【振付】ケネス・マクミラン
【音楽】セルゲイ・プロコフィエフ
【指揮】ジョナサン・ロー

【上映スケジュール】2時間55分

解説、インタビュー 16分

第1幕 58分

休憩 10分

解説、インタビュー 10分

第2幕+第3幕 81分

【出演】

ジュリエット:アナ=ローズ・オサリバン
ロミオ:マルセリーノ・サンベ
マキューシオ:ジェームズ・ヘイ
ティボルト:トーマス・ホワイトヘッド
ベンヴォーリオ:レオ・ディクソン
パリス:ニコル・エドモンズ
キャピュレット夫人:クリステン・マクナリー
キャピュレット卿:ギャリー・エイヴィス
エスカラス:ルーカス・B・ブレンスロッド
ロザライン:クレア・カルヴァート
乳母:ロマニー・パイダク
ローレンス神父╱モンタギュー卿:フィリップ・モーズリー
モンタギュー夫人:オリビア・カウリー
ジュリエットの友人:ミカ・ブラッドベリ、アシュリー・ディーン、レティシア・ディアス、佐々木万璃子、シャーロット・トンキンソン、アメリア・タウンゼント
3人の娼婦:メ―ガン・グレース・ヒンキス、イザベラ・ガスパリーニ、ジーナ・ストーム・ジェンセン
マンドリン・ダンス:ジュンヒュク・ジュン、デヴィッド・ドネリー、ハリソン・リー、フランシスコ・セラノ、スタニスラウ・ヴェグリジン、デヴィッド・ジュデス

 

ケネス・マクミラン版の『ロミオとジュリエット』の初演は1965年。すでに530回以上も上演されているそうです。

疲れ切ったロミオと元気なジュリエットのバランス?

シネマの楽しみのひとつは、上演前や幕間のインタビュー。恒例の芸術監督ケヴィン・オヘアへの開演前のインタビューからはじまり、メインキャストのアナ=ローズ・オサリバン、マルセリーノ・サンベ、トーマス・ホワイトヘッド、デボラ・マクミラン、エドワード・ワトソンとリャーン・ベンジャミンらへのインタビューがありました。

 

特に面白かったのはロミオとジュリエット役の指導を行ったエドワード・ワトソンとリャーン・ベンジャミンへの幕間のインタビュー。(話の内容とは関係ないけど、エドワード・ワトソンのジャケット姿がカッコよかった!)

ロミオはとても難しい役で、特に1幕が大変だという話からの流れから、リャーン・ベンジャミンが「バルコニーのパ・ド・ドゥの難しさのひとつは、生き生きとした(元気な)ジュリエットと疲れているロミオのバランス」と話していました。ジュリエットは全体を通しても意外に踊りが少ないとのこと。言われてみれば確かに!

踊りあり、ソード・ファイトありで、疲れ切ったロミオが力を振り絞って、大変そうなリフト頻出のパ・ド・ドゥを踊っているんですね。 

エドワード・ワトソンとリャーン・ベンジャミンはでてきませんが、インタビューの一部はこちら↓

www.youtube.com

構成はシンプル。ディテールは細かくみせるマクミラン版

今回改めてマクミラン版を観ると、非常にシンプルで主役の2人にフォーカスした構成だなと感じました。

それと同時に、街の群衆やキャピュレット家の舞踏会に集う人々にも細かな設定があり、さまざまな小さなストーリーが舞台上で繰り広げられている。娼婦にちょっかいを出して、彼女に怒られる街の男の子や、舞踏会で呑みすぎて気持ちが悪くなってしまった客人…。断片的にしか観客の目には入らないのですが、それがドラマに奥行きを与え、主役の2人をさらに引き立てている気がします。

シネマだと、そんな表情や演技を細かく拾ってくれるので、生の舞台とはまた違った面白さが味わえました。

可憐なジュリエットとしなやかなロミオ

昨年プリンシパルに昇格したばかりのアナ=ローズ・オサリバン。可憐な容姿はいかにもジュリエットにぴったりです。印象に残ったのはキャピュレット家の舞踏会で婚約者パリスと踊るシーン。演じるダンサーによっては、憂いを帯びた表情だったり、無表情だったりしますが、アナ=ローズ・オサリバンのジュリエットは、無邪気に踊りを楽しんでいる雰囲気。

表情のなかに憂いを感じさせるようになるのは、ロミオと出会ったあとです。そして女性として成長していくにつれて、踊りもよりダイナミックに変化していく、そんなジュリエットでした。

2020年日本公開の映画版ではマキューシオを踊り、驚異的な身体能力を感じさせたマルセリーノ・サンベ。今回のロミオでもキレのある踊りは相変わらずですが、よりコントロールされ、しなやかになった印象でした。

ロイヤル・バレエ・スクールの同級生という2人。とてもフレッシュで息のあったロミオとジュリエットでした。

やさぐれティボルト

ジュリエットのいとこで、ロミオの宿敵となるティボルトはプリンシパル・キャラクター・アーティストのトーマス・ホワイトヘッド。シーズン2018/2019のシネマでは、ティボルトは同じくプリンシパル・キャラクター・アーティストのギャリー・エイヴィス。英国ロイヤル・バレエではティボルトにベテランをキャスティングするのが定番のようです。

ギャリー・エイヴィスは堂々とした威圧感のあるティボルトでしたが、トーマス・ホワイトヘッドは、かっとしやすいものの、そこまで強そうではない、キレやすい性格の裏に臆病さが見えるような、暗い目をしたティボルトでした。叔父のキュピレット卿も「しょうがない奴だな」と手を焼いてる感じの、やさぐれ感のあるキャラクターがなかなか面白かった。

そして今回ギャリー・エイヴィスが演じていたのが、キャピュレット卿。このキャピュレット卿がよかった!ジュリエットを扱いあぐねている感じとか、ジュリエットに冷たくされたパリスへの対応とか、細部に至るまで本当にリアル。

キャピュレット夫人を演じるクリステン・マクナリーとともに、英国ロイヤル・バレエの舞台に欠かせない名優です。

そしてダンサーではないのですが、指揮者のジョナサン・ローのことが気になりました。とてもタイトなスーツ姿、ちょっと踊るような軽快な指揮で、つい見入ってしまう感じ。指揮者を映す映像もいつもより長めだった気がする…。

おわりに

英国ロイヤル・バレエの『ロミオとジュリエット』は観るたびに、さすがシェークスピアの国!と思ってしまう。今回も素晴らしかったです。

『ロミオとジュリエット』ラッシュの今年。東京バレエ団公演のジョンクランコ版も今から楽しみです。

概要/ロミオとジュリエット/2022/NBS公演一覧/NBS日本舞台芸術振興会

 

2019年収録、ヤスミン・ナグディ&マシュー・ボール主演↓

 

こちらは映画版。フランチェスカ・ヘイワード&ウィリアム・ブレイスウェル↓

★最後までお読みいただきありがとうございました。