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大人バレエとバレエ鑑賞を楽しむための情報発信ブログ

『シュツットガルト・バレエ団の輝けるスターたち』Cプロ【バレエ鑑賞メモ】

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『シュツットガルト・バレエ団の輝けるスターたち』、3月21日(月・祝)のCプロを鑑賞しました。当初予定されていたシュツットガルト・バレエ団のフル・カンパニーの公演がコロナの影響で中止となり、代わりにおこなわれたガラ公演。久しぶりに海外ダンサーたちの踊りを楽しみました。

公演概要

『シュツットガルト・バレエ団の輝けるスターたち』Cプログラム

2022年3月21日(月・祝)14:00〜

東京文化会館大ホール

*特別録音による音源を使用。『椿姫』より第2幕のパ・ド・ドゥ、『Ssss...』よりソロ、の2作品のみ、菊池洋子さんによるピアノ演奏。

【出演者】

ロシオ・アレマン、エリサ・バデネス、アグネス・スー、デヴィッド・ムーア、マルティ・フェルナンデス・パイシャ、フリーデマン・フォーゲル

マッケンジー・ブラウン、ヘンリック・エリクソン、クリーメンス・フルーリッヒ、アレッサンドロ・ジャクイント、マッテオ・ミッチーニ

【上演スケジュール】

第1部  15:00~15:50
休憩 20分
第2部  16:10~17:05
休憩 20分
第3部  17:25~17:45

今回のガラはAプロ、Bプロ、Cプロ各1回の公演。フリーデマン・フォーゲルの『ボレロ』は3日連続上演でした。

出演ダンサーは6人のプリンシパルと5人のドゥミ・ソリスト。(出演予定だったドゥミ・ソリストのガブリエル・フィゲレドは来日直前に体調を崩して不参加に。)

シュツットガルト・バレエ団の芸術監督のタマシュ・デートリッヒも来日しており、客席に姿がありました。カーテンコールでは舞台にも登場。

『オネーギン』が観られなかった

招聘元の今回の推しは『ボレロ』だったのでしょうが、個人的にはフリーデマン・フォーゲルの『オネーギン』をとても楽しみにしていました。

40歳を超え、キャリアの円熟期にあるフォーゲル。今こそ彼の『オネーギン』が観たい。(本当はフル・カンパニーの公演で予定されていた全幕『オネーギン』で観たかったけど…)

 

2021年の世界バレエフェスティバルで観たフォーゲルの1幕と3幕のパ・ド・ドゥも素晴らしかった↓

www.balletaddict.com

 

なのに!まさかの当日変更。

演目変更の理由は、「芸術監督の強い意向により」ということでした。

キャスト変更ではなく演目が変更になったので、『オネーギン』自体全く観られず 。

「まさかの」とは書きましたが、Bプロで『オネーギン』のキャストがフォーゲルからマルティ・フェルナンデス・パイシャに変更になったあたりから、なんとなく予感はしてました。

当初、Cプロのフォーゲルの出演は『オネーギン』→『うたかたの恋』→『ボレロ』。

濃厚なドラマティックバレエ2作品と3日連続『ボレロ』の最終日。

大丈夫なのか?と思っていましたが、やはり…。

 

結果的に3回公演でフリーデマン・フォーゲルが出演したのは、『うたかたの恋』と『ボレロ』の2作品でした。

それでも十分に充実した舞台でした。各作品の感想を簡単に書きます。

第一部

『ホルベアの時代』より

振付:ジョン・クランコ
音楽:エドヴァルド・グリーグ

【出演】アグネス・スー、マルティ・フェルナンデス・パイシャ

グリーグ作曲の「ホルベアの時代」に振り付けられた、オープニングにぴったりの清々しい作品でした。2021年11月にプリンシパルになったばかりのアグネス・スーは手脚が長くしなやか。特に優雅な腕の動きに魅せられました。

ホワイトからブルーのグラデーションで、男女でグラデーションの方向が逆になっている衣裳も素敵だった。

『椿姫』より第2幕のパ・ドゥ・ドゥ

振付:ジョン・ノイマイヤー
音楽:フレデリック・ショパン

【出演】エリサ・バデネス、デヴィッド・ムーア

『オネーギン』の替わりに上演されたのはノイマイヤーの『椿姫』第2幕のパ・ド・ドゥ。結果的にエリサ・バデネス&デヴィッド・ムーアの『椿姫』は3日連続の上演になりました。

演目変更に気をとられていたせいか、残念ながらあまり作品に入り込めず。大好きな作品(実は『オネーギン』より好き)ですが、『椿姫』のパ・ド・ドゥ、特にこの切ない第2幕のパ・ド・ドゥをガラで観るときは、一気に作品世界に没入できるかが、勝負(なんの?)な気がします。

『ソロ』

振付:ハンス・ファン・マーネン
音楽:ヨハン・セバスティアン・バッハ

【出演】ヘンリック・エリクソン、アレッサンドロ・ジャクイント、マッテオ・ミッチーニ

男性のドゥミ・ソリスト3人によるコンテンポラリー作品。これはおもしろかったです。

テンポの速いバッハの曲にあわせて、3人が次々に踊ります。重心を低くした姿勢でのスピーディーな動きは、生き生きとしていて、ときにユーモラス。最後まで目が離せませんでした。

『ロミオとジュリエット』より 第1幕のパ・ド・ドゥ

振付:ジョン・クランコ
音楽:セルゲイ・プロコフィエフ

【出演】ロシオ・アレマン、マルティ・フェルナンデス・パイシャ

ジョン・クランコ版『ロミオとジュリエット』より、バルコニーのパ・ド・ドゥ。ロシオ・アレマン、マルティ・フェルナンデス・パイシャ、ともにフレッシュで役に合っていました。

2019年のWORLD BALLET DAY に配信された『ロミオとジュリエット』のリハーサルでは、エリサ・バデネスとフリーデマン・フォーゲルがバルコニーのシーンを踊っています。この映像では、ものすごく情感あふれる演出・振付だと思ったのですが(観ているだけでちょっとニヤケてしまうぐらい 笑)、今回の舞台ではそこまでの「ラブラブ感」はなかったような…。

21:00あたりからバルコニーのシーンです↓

www.youtube.com

もうすぐ東京バレエ団がジョン・クランコ版『ロミオとジュリエット』全幕を上演しますね。どんな舞台になるのか楽しみです。

第2部

『白鳥の湖』より 黒鳥のパ・ド・ドゥ

振付:ジョン・クランコ *マリウス・プティパに基づく
音楽:ピョートル・チャイコフスキー

【出演】エリサ・バデネス、デヴィッド・ムーア

『椿姫』のふたりが、再び登場。この2人の組み合わせには『黒鳥』の方がハマる感じ。2021年の世界バレエフェスティバルでも、「黒鳥」を踊っていたエリサ・バデネス。強靭なテクニックが生きる演目だと思いました。

デヴィッド・ムーアはここ数年で身体が一回り大きくなった気がする…。若干重い印象でしたが、王子らしい堂々とした風格がありました。

『Ssss...』より ソロ

振付:エドワード・クルグ
音楽:フレデリック・ショパン

【出演】マルティ・フェルナンデス・パイシャ

ルーマニア出身の振付家エドワード・クルグの作品。ショパンのノクターンにのせた、繊細な作品でした。本日3作品目に出演のマルティ・フェルナンデス・パイシャ。この作品が一番似合っていたかも。

『コンチェルト』

振付:ケネス・マクミラン
音楽:ドミートリイ・ショスタコーヴィッチ

【出演】アグネス・スー、クリーメンス・フルーリッヒ

マクミランの『コンチェルト』から叙情的な第2楽章のパート。バーレッスンのようなシンプルな動きの繰り返しですが、ダンサーの実力があきらかになる作品のような気がします。

アグネス・スーはこの演目でも美しかったです。レッスンバーに見立てられた男性ダンサーが、常に女性ダンサーをサポートし続けているこのパート。アグネス・スーが美しく見えたということは、パートナーのクリーメンス・フルーリッヒもいい仕事をしていたということでしょう。

『スペル・オン・ユー』

振付:マルコ・ゲッケ
音楽:ニーナ・シモン

【出演】マッケンジー・ブラウン、ヘンリック・エリクソン、アレッサンドロ・ジャクイント、マッテオ・ミッチーニ

この作品もとてもよかったです。コンテンポラリー音痴の私ですが、シュツットガルト・バレエ団の上演するコンテンポラリー作品には、惹かれるものが多いです。

2005年から2018年までシュツットガルト・バレエ団の常任振付家だったマルコ・ゲッケの作品。第1部『ソロ』に出演した3人に加えて、ローザンヌ国際バレエコンクールでの活躍も記憶に新しいマッケンジー・ブラウンが出演。

エネルギッシュで、独特な手の動きが印象的な振付。もし振付だけを音楽なしで見たら、ジャズ・ヴォーカルに合わせた振り付けには見えない気がするのですが、実際にはジャズシンガー、ニーナ・シモンの歌声と振付が絶妙に調和していました。

 

上半身裸(マッケンジー・ブラウンはスキンカラーのレオタード)、下半身は黒いパンツで、ウエストからキラキラ光る長い2本の紐状のもの?が垂れている衣裳でした。紐が揺れる様子もきれいだった。

 

ローザンヌ国際コンクール2019でのマッケンジー・ブラウン。コンテンポラリーのクリアな踊りが印象深い↓

www.youtube.com

『うたかたの恋』より 第2幕のパ・ド・ドゥ

振付:ケネス・マクミラン
音楽:フランツ・リスト
編曲:ジョン・ランチベリー

【出演】エリサ・バデネス、フリーデマン・フォーゲル

ハプスブルグ家の皇太子ルドルフが、17歳の愛人マリーと心中したマイヤーリンク事件を題材にした『うたかたの恋』から、ルドルフの寝室を舞台にした第2幕のパ・ド・ドゥ。

この演目も3日連続の上演でした。『うたかたの恋』のシュツットガルト・バレエ団での初演は2019年。タマシュ・デートリッヒが芸術監督に就任した後、新たに加わった全幕レパートリーです。そういう意味でも、ぜひとも日本で上演したかったのでしょうね。

フリーデマン・フォーゲル演じる皇太子ルドルフは軍服の上着を着て登場し、すぐに脱ぎ捨てます。軍服の下は白いとろみのある素材のシャツ。エレガントなものではなく、シンプルでインナーっぽいシャツです。下はサイドに赤のラインが入ったぴったりした黒のパンツ(タイツ)と黒のロングブーツ。

この衣裳があまりにフォーゲルに似合っていて!

手脚の長さ、ライン、筋肉のつき方、全体のバランス…完全に個人的な好みですが、男性ダンサーとしては理想的な身体の持ち主だとしみじみ眺めてしまいました。

いきなりフォーゲルの身体のことばかり書いてしまいましたが、作品もよかったです。幕が開いて、一気に物語に引き込まれる感じでした。

『うたかたの恋』全幕は英国ロイヤル・バレエのシネマでスティーブン・マックレーがルドルフを演じたものしか観たことがありません。フォーゲルのルドルフはマックレーに比べると、苦悩する感じはあまりない。むしろ淡々としていて、すでに心が向こう側に行ってしまった人の狂気、みたいなものを感じました。

令嬢マリーを演じたエリサ・バデネスも、狂気を内に秘めた情熱を感じさせて、とてもよかった。

 

この公演のフリーデマン・フォーゲルの紹介画像。ちらっと『うたかたの恋』の映像が見られます↓

www.youtube.com

ちなみに素人考えでは、2部の最後にこの演目→20分の休憩後に3部の『ボレロ』ってどうなの?って思ってしまいますが、あまり間を空けずに踊ったほうがむしろ楽なんでしょうか?

 

第3部

『ボレロ』

振付:モーリス・ベジャール
音楽:モーリス・ラヴェル

【出演】フリーデマン・フォーゲル
   樋口祐輝、玉川貴博、大塚卓、岡﨑司、東京バレエ団

 

円卓上で踊るフリーデマン・フォーゲルの肉体と動きに、ひたすら見入っているうちにあっという間に終わってしまった20分。今まで観た『ボレロ』の中で、最も短く感じた20分でした。

 

フォーゲルが「ダンスマガジン」のインタビューで、『ボレロ』についてこんなふうに語っていました。

そして、観客の皆さんとのエネルギーの交換。ぼくは観客を自分の踊りに巻き込もうとは思いません。ぼく自身が『ボレロ』で作り出すストーリーのなかにみなさんを導き入れたいんです。

「ダンスマガジン」2022年4月号より抜粋

この言葉通り、フォーゲルの内なる世界に引き込まれていくような、そんな『ボレロ』でした。

それにしても、改めてフォーゲルの動きの精度に驚きます。後ろアチチュードに脚を振り上げるところとか、脚以外のパーツが微動だにしない。背景の暗闇に黒いタイツが馴染んで脚のラインが見えにくいなか、アチュードに振り上げた裸足の足先が暗闇に浮かんで、はじめて脚上げてるんだと気づく感じ。

共演の”リズム”は東京バレエ団のダンサーたち。”メロディ”との一体感が素晴らしかったです。

おわりに

最終日だったので、終演後の幕の向こう側からダンサーたちの歓声が聞こえてきて、無事に3日間終わってよかったなぁと感慨深かったです。

全幕公演中止は残念でしたが、ガラ公演からもシュツトガルト・バレエ 団のダンサーやレパートリーの充実ぶりが伝わってきました。

 

英国ロイヤル・バレエの来日公演も全幕からガラ公演に変更になりましたね。

当分来日公演はガラ公演が主流になるのかも。

概要/英国ロイヤル・バレエ ガラ/2022/NBS公演一覧/NBS日本舞台芸術振興会

 

ダンスマガジン4月号 特集「フリーデマン・フォーゲルのいま」

表紙は観たかった『オネーギン』↓

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アリシア・アマトリアインとフォーゲルの『オネーギン』↓

レンスキーはムーア、オリガはバデネスです。

 

バデネスとムーアの『ロミオとジュリエット』↓

★最後までお読みいただきありがとうございました。

Kバレエカンパニー 飯島望未×山本雅也『ロミオとジュリエット』【鑑賞メモ】

Kバレエカンパニーの『ロミオとジュリエット』を鑑賞しました。ジュリエットは飯島望未さん、ロミオは山本雅也さん。私が鑑賞したのは初日の3月17日ですが、同じキャストで上演された3月21日の千秋楽の舞台の後、飯島望未さんはプリンシパルに任命されました!

公演概要

Spring 2022『ロミオとジュリエット』 Kバレエカンパニー

Bunkamura オーチャードホール

2022年3月17日(木) 14:00〜

芸術監督/演出/振付:熊川哲也

音楽:セルゲイ・プロコフィエフ

原作:ウイィアム・シェイクスピア

舞台美術・衣裳デザイン:ヨランダ・ソナベンド

照明デザイン:足立亘

指揮:井田勝大
管弦楽:シアター オーケストラ トーキョー

 【上演スケジュール】

第1幕 55分

休憩 25分

第2幕 65分

【キャスト】

ジュリエット:飯島望未

ロミオ:山本雅也

マキューシオ:吉田周平

ティボルト:杉野慧

ベンヴォーリオ:奥田祥智

ロザライン:日髙世菜

パリス:堀内將平

キャピュレット卿:グレゴワール・ランシェ

キャピュレット夫人:山田蘭

乳母:前田真由子

僧ロレンス:ニコライ・ヴィユウジャーニン

キャピュレット家の娘たち:浦邉玖莉夢、新居田ゆり、栗山結衣、澤美葵、丸山さくら

キャピュレット家の若者たち:栗山廉、金瑛揮、武井隼人、田中大智、中井皓己

ヴェローナの娘たち:毛利実沙子、戸田梨沙子、高橋怜衣、山田夏生、塚田真夕、辻梨花

ジュリエットの友人たち:辻久美子、菅野望美、佐伯美帆、吉田早織、吉岡眞友子

マンドリンダンス:酒匂麗、栗山廉、金瑛揮、田中大智

 

熊川哲也版『ロミオとジュリエット』の初演は2009年。Kバレエカンパニー創立10周年の記念として制作され、その後15周年、20周年と節目の年に上演されている作品であることからも、熊川哲也さんの自信作であることがうかがわれます。

今回東京7公演のジュリエット役は、飯島望未さん、成田紗弥さん、岩井優花さん、吉田早織さん。飯島望未さん以外は全幕のジュリエットは初役(昨年夏入団の飯島さんも熊川版『ロミオとジュリエット』のジュリエット役は今回がはじめて)。さらに岩井優花さん、吉田早織さんは全幕主役デビューというフレッシュな配役でした。

 

ジュリエットそのものだった飯島望未さん

飯島望未さんの可憐な佇まいはジュリエットにぴったり。踊りは力強くしなやかで、ロミオとの愛に突き進んでいく一途さと情熱を感じさせました。

飯島望未さん主演の全幕を観たのは、Kバレエカンパニー入団前にゲストでキトリを踊った昨年5月の『ドン・キホーテ』以来。キトリより今回のジュリエットのほうが格段に良かった。決してキトリが悪かったわけではないのですが、ふとした瞬間に飯島さんの表現が周囲とはやや異質に見えることがあり…。カンパニーに入団する前の、ゲストとしての出演だったからかもしれません。

今回はロミオの山本雅也さんとの息もぴったり。幕が下りる瞬間まで、ドラマへの没入感が途切れることはありませんでした。

『ドン・キホーテ』の感想はこちら↓

www.balletaddict.com

 

ティボルト、マキューシオ、パリス…脇を固める名優たちに魅せられる

Kバレエカンパニーの公演ではいつも目をひかれる杉野慧さん。今回のティボルトも魅力的でした。アクが強くて眼光が鋭く、熊川版ティボルトのワルなキャラクターにはまっていました。その一方で、剣で戦うときの所作は美しくスマート。ティボルトが、マキューシオとベンヴォーリオのふたりを相手に戦うシーンがあるのですが、思わずティボルトを応援したくなりました。

終演後の杉野慧さんのインスタグラムの投稿に笑った。暗闇に佇むティボルト↓

 
 
 
 
 
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キレのある踊りが、快活なマキューシオにぴったりだった吉田周平さん。超絶に難しそうな振付を生き生きと踊り、ティボルトを挑発する演技がうまかった。

堀内將平さんのパリスも素敵でした。踊りに品があり、育ちのいい「坊ちゃん」な雰囲気が似合い過ぎ。嫌な奴感はあまりないパリスなので、ジュリエットに毒を飲まれたうえに、ロミオに殺されてしまうのがちょっと気の毒に思えてしまいます。

黒髪のイメージの堀内將平さんですが、今回はパリス仕様なのか、明るい茶髪だったのが新鮮でした。別の回ではロミオとティボルトにも、キャスティングされているんですよね。そちらも観てみたかったです。

Kバレエカンパニーの舞台になくてはならない名優、山田蘭さん。山田蘭さんが舞台に登場すると、思わずオペラグラスを覗いてしまいます。キャピュレット夫人も素晴らしかった。1幕のモンタギュー夫人と形だけの仲直りをするシーンで、頭を下げつつも内心「ふんっ!」みたいな演技が最高でした。

ヴェローナの娘たちのリーダー役の毛利実沙子さんも、はすっぱで華やかな雰囲気が似合っていて、目を引きました。

熊川版『ロミオとジュリエット』の特徴、踊るロザライン!

熊川版バレエの特徴のひとつは、スピーディーな展開。通常3幕の『ロミオとジュリエット』も、2幕で構成しています。マクミラン版などではティボルトの死までが2幕ですが、熊川版では物語はそのまま最後まで続きます。『ロミオとジュリエット』はもともと数日間の物語だし、一気にラストまで駆け抜ける感じがして、これはこれでありかなと思いました。

もうひとつ、通常ほとんど踊らないロザラインをポアントで踊る役にしているのも、熊川版『ロミオとジュリエット』の大きな特徴。キャラクターも華やかで奔放な女性という設定のようです。冒頭からロミオが弾くマンドリンに合わせて踊り、ロミオたちがキャピュレット家にしのびこむときの「仮面」の踊りにも参加。しかも義理のいとこであるティボルトとは恋人同士という設定。ティボルトの死を嘆くのも、ロザライン。かなり活躍場面が増えています。

この回のロザラインは日髙世菜さん。いつもながらの美しいラインを堪能しました。(日髙世菜さんの踊りが観られたのはうれしかったのですが、個人的な好みとしては踊らないロザラインも「高嶺の花感」があって好きなんですけどね…。)

熊川版バレエには、「踊る役」が多い。なるべく多くのダンサーに踊るチャンスを与えるためなのかな、と想像しています。ロザラインだけではなく、ティボルトも踊るシーンが多いし、キャピュレット卿がけっこう派手に踊っていたのには驚いた!

この演出はいいなと思ったのが、手紙のエピソード。ジュリエットがロミオに書いた手紙(仮死状態になる薬を飲むという説明の手紙)を僧ロレンスから託された僧ジョンが、ロミオに届けにいく途中で、強盗に襲われるシーンが挿入されています。

悲劇の原因となった2人の行き違いが軽く扱われている感じがしていましたが、これなら納得です。

ヨランダ・ソナベンドの衣裳が素晴らしい

Kバレエカンパニーの公演を観る楽しみのひとつは舞台装置や衣裳。とくにヨランダ・ソナベンドの衣裳は好きです。豪奢で美しいうえに、現代的なセンスも感じさせる衣裳だなと思う。

今回のジュリエットの淡いピンクのシンプルな衣裳も、とても美しかった。キャピュレット卿と夫人のモノトーンの衣裳も素敵でした。

舞台美術で印象に残ったのは、キャピュレット家の大広間のシーンで、奥の高い位置に設けられていた回廊。ロミオとジュリエットがはじめて視線を交わすとき、ロミオがこの回廊の上にいて、ジュリエットは下の広間にいます。見つめ合うふたりの距離が、観客からも立体的に感じられ、その後のバルコニーのシーンとは上下が逆になっているのも効果的な演出だなと思いました。

おわりに

Kバレエカンパニー+飯島望未さんの相乗効果か、いつにも増して客席は若々しく華やか。新しいファン層を確実に開拓している気がします。

GWには東京バレエ団のジョン・クランコ版『ロミオとジュリエット』、5月にはシネマになりますが、英国ロイヤルバレエ団のマクミラン版。今年は『ロミオとジュリエット』を観る機会が多くてうれしいです。

 

Kバレエカンパニーの音楽監督・指揮者の井田勝大さんの「ダンスマガジン」での連載「バレエ音楽館」、4月号、5月号のテーマは『ロミオとジュリエット』。プロコフィエフの名曲への考察が興味深い。

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Kバレエコンパニーの次回公演は『カルメン』。こちらも楽しみです!

Spring 2022『カルメン』 | K-BALLET COMPANY / K-BALLET FRIENDS

 

バレエとはなんの関係もないけど「ロミオとジュリエット」という名のイタリアワイン。ラベルがかわいい↓

★最後までお読みいただきありがとうございました。

米沢唯主演『ラ・エスメラルダ』日本バレエ協会公演【バレエ鑑賞メモ】

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日本バレエ協会公演『ラ・エスメラルダ』を鑑賞しました。主演・エスメラルダは米沢唯さん。はじめて観た全幕『ラ・エスメラルダ』、色々と驚きがありました!

公演概要

『ラ・エスメラルダ』全3幕5場

2022年3月5日(土)18:00〜

会場:東京文化会館 大ホール

公益社団法人日本バレエ協会公演

2022都民芸術フェスティバル 参加公演

 

原振付:ジュール・ペロー

音楽:チェレーザ・プゥニ、リッカルド・ドリゴ他

復元振付・演出:ユーリ・ブルラーカ
バレエミストレス:佐藤真左美、角山明日香

総監督:岡本佳津子

照明:沢田 祐二
*録音音源使用

【上演スケジュール】

第1幕 18:00〜18:55

休憩20分

第2幕 17:15〜20:15

休憩20分

第3幕 20:35〜21:10

 

【キャスト】

エスメラルダ:米沢唯(新国立劇場バレエ団)

フェビュス(フェブ):中家正博(新国立劇場バレエ団)

ピエール・グリンゴワール:木下嘉人(新国立劇場バレエ団)

クロード・フロロ:遅沢佑介

カジモド:奥田慎也(法村友井バレエ団)

クロパン・スリフトゥ:荒井英之

フルール・ド・リ:玉井るい(新国立劇場バレエ団)

ダイアナ:飯塚絵莉(東京シティ・バレエ団)

アクテオン:藤島光太(谷桃子バレエ団)

 

ヴィクトル・ユゴーの小説『ノートル=ダム・ド・パリ』に基づいた『ラ・エスメラルダ』。ジュール・ペロー台本・振付による初演は1844年。その後は、プティパ、ワガノワ、ブルメイステルらによる改訂版が創られてきました。

今回上演されたユーリ・ブルラーカ演出・振付のバージョンはプティパ版の復刻とのこと。

 

3回の公演がありましたが、メインキャストは総入れ替え。私が観に行った回は、メインキャストは新国立劇場バレエ団勢。それぞれの回で、ガラッと顔ぶれが変わります。

3月6日ソワレの白石あゆ美さん、橋本直樹さん、清水健太さん、というKバレエ カンパニー卒業組?みたいなキャストも観てみたかった。

脇を固めているのは、オーディションで選ばれたダンサーたち。さまざまなバレエ団やフリーで活動するダンサーが参加していました。

 

タンバリンのバリエーションはなかった!

『ラ・エスメラルダ』の全幕は、今回はじめて観ました。おなじみのタンバリンのバリエーションのイメージと、ヴィクトル・ユゴーの『ノートル=ダム・ド・パリ』が原作…その程度の予備知識で観に行った私。

無知を晒すようでお恥ずかしいのですが、実際に観て驚いたことがふたつ。

驚いたこと  その1

エスメラルダが、タンバリンを手に踊るシーンはたくさんあるものの、おなじみのバリエーションはなかなか出てこないと思っているうちに、終わってしまった…。あの曲すら出てこなかった。

調べてみると、このバリエーションは1954年にニコラス・ベリオゾフが改訂版を発表した際に、新たに振り付けたもので、版によっては出てこないらしい…。

 

おなじみのエスメラルダのバリエーション。

ローザンヌ国際バレエコンクール2019の佐々木須弥奈さん↓

www.youtube.com

 

驚いたこと その2

「ダイアナとアクティオンのパ・ド・ドゥ」が出てくる。これは以前から目にしていたような気もしますが、実際に劇場で目の当たりにするとやっぱり驚く。

パ・ド・ドゥが出てくるのは第2幕。フェブの婚約者で大貴族の令嬢フルール・ド・リの母の屋敷で催されているふたりの婚約を祝う宴の最中。

筋書きとは関係ないディベルティスマンが挿入されるのは、バレエでは普通のことではありますが、貧民窟とか、色に狂う宗教者とか、退廃ムードただよう中世のパリから一転、神話の世界って…。『白鳥の湖』とか『眠れる森の美女』なら本筋自体がファンタジーなので、あんまり違和感ないですが。

ちなみに、公演パンフレットにも「”ダイアナとアクテオン”ラ・エスメラルダ挿入の謎」という文章が掲載されていました。 

そもそもこの場面はマリウス・プティパが「ラ・エスメラルダ」をロシアで蘇演する際に挿入した自作「カンダウル王」で既に振付ていたパ・ド・トロワが発端とされる。

 そのプティパ版20世紀初頭になってアグリッピナ・ワガノワが再演する際にこのパ・ド・トロワをパ・ド・ドゥに改め、”ダイアナとアクティオンのパ・ド・ドゥ”として世に広まった。

『ラ・エスメラルダ』公演パンフレットより抜粋

謎はさておき、「ダイアナとアクティオンのパ・ド・ドゥ」この日のキャストは東京シティ・バレエ団の飯塚絵莉さんと谷桃子バレエ団の牧村直紀さん。ふたりともテクニックにキレがあり、爽快な踊りでした。

エスメラルダをめぐる4人の男

美しい踊り子・エスメラルダは、身分違いの王室射手隊長のフェブと惹かれあうが、エスメラルダに魅了された司教補佐フロロによってフェブは刺され、その罪を着せられたエスメラルダは死刑になる。

ざっくりとしたあらすじはこんな感じですが、今回上演されたのはハッピーエンド版。死んだと思ったフェブは生きており、国王の罷免状によってエスメラルダは死刑を免れます。

版によってあらすじもディテールもさまざまなようですが、主人公エスメラルダに惹かれる男性が4人も出てくるのが、この物語の特徴ではないかと思います。

フェブ(フェビュス):王室射手隊長

貴族の婚約者がいながら、美しいエスメラルダに惹かれ、婚約者にもらったスカーフをエスメラルダにプレゼントしてしまう最低男フェブ。今回上演された版では、エスメラルダを救って結ばれるという結末なのでまだマシですが、エスメラルダが死刑になる版なら、かなりひどい男ですね。

新国立劇場バレエ団の公演ではアクの強い役にキャスティングされることが多い中家正博さんの二枚目ぶりが新鮮でした。

グランゴワール:貧しい青年詩人

貧民窟に迷い込み、殺されかけたところをエスメラルダに助けられる貧乏詩人グランゴワール。気弱でぱっとしない感じが、バレエ に出てくる男性キャラクターとしては珍しく、なんだか憎めない。(グランゴワールは版によっては出てこないらしいです。)

木下嘉人さんがひょうひょうとした雰囲気で演じていて、とてもよかった。

フロロ:ノートルダム寺院の司教補佐

聖職者でありながら、美しいエスメラルダに惹かれて誘拐を企てた上、フェブを刺して、その罪をエスメラルダにきせるという極悪人。

フロロ役は元Kバレエカンパニープリンシパルの遅沢佑介さん。ほぼ踊らない役ですが、フロロのねちっこくいやらしい感じがうまくでていて、存在感がありました。

カジモド:ノートルダム寺院の鐘楼守

その容姿ゆえに、ノートルダム寺院の前に捨てられていたカジモドは、フロロに拾われて育てられる。フロロに恩義を感じており、エスメラルダ誘拐にも加担するが、エスメラルダの優しい心に触れて惹かれるようになる。最後は錯乱したフロロからエスメラルダを守り、フロロを死に追いやる。

深いドラマを感じさせるカジモドという存在。エスメラルダとフェブの恋物語に主軸を置いているこの版では、そこまでスポットはあたらないのですが…。

米沢唯さんはいつ観ても輝いている

『ラ・エスメラルダ』という作品自体に気を取られすぎて、肝心のエスメラルダにふれるのが最後になってしまいましたが、いつ観ても米沢唯さんは素晴らしい。揺るぎないテクニックも相変わらず。おなじみのバリエーションはありませんでしたが、かなり踊るシーンが多く見応えがありました。

婀娜っぽい感じは少なめで、明るくピュアな米沢さんのエスメラルダ。木下嘉人さん演じる気弱なグランゴワールとの掛け合いが、なんだか微笑ましく、フェブよりお似合いなのでは…と思ってしまいました。

おわりに

6月には牧阿佐美バレヱ団がローラン・プティ版『ノートルダム・ド・パリ』を上演予定です。日本でプティ版レパートリーにしているのは牧阿佐美バレヱ団のみ。今回の『ラ・エスメラルダ』と比較して観るのも面白そうです。

この公演、1日目は牧阿佐美バレヱ団キャスト。2日目はメインキャスト3人はゲストダンサーというキャスティング。ゲストダンサーの顔ぶれがすごい。エスメラルダはミハイロフスキーのアンジェリーナ・ヴォロンツォーワ、カジモドはパリ・オペラ座のステファン・ビュリヨン、フェビュスはボリショイのデニス・ロヂキン

ノートルダム・ド・パリ 牧阿佐美バレヱ団

 

こちらはプティ版『ノートルダム・ド・パリ』。エスメラルダはオシポア、カジモドはボッレ!

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